・・・もっとも父は私の弟以下にはあまり烈しい、スパルタ風の教育はしなかった。 父も若い時はその社交界の習慣に従ってずいぶん大酒家であった。しかしいつごろからか禁酒同様になって、わずかに薬代わりの晩酌をするくらいに止まった。酒に酔った時の父は非・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・ケサ、快晴、ハネ起キテ、マコト、スパルタノ愛情、君ノ右頬ヲ二ツ、マタ三ツ、強ク打ツ。他意ナシ。林房雄トイウ名ノ一陣涼風ニソソノカサレ、浮カレテナセル業ニスギズ。トリツク怒濤、実ハ楽シキ小波、スベテ、コレ、ワガ命、シバラクモ生キ伸ビテミタイ下・・・ 太宰治 「創生記」
・・・おのれのスパルタを汚すよりは、錨をからだに巻きつけて入水したいものだとさえ思っている。 さもあらばあれ、「晩年」一冊、君のその両手の垢で黒く光って来るまで、繰り返し繰り返し愛読されることを思うと、ああ、私は幸福だ。――一瞬間。ひとは、そ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・刈り株ばかりの冬田の中を紅もめんやうこんもめんで頬かぶりをした若い衆が酒の勢いで縦横に駆け回るのはなかなか威勢がいい、近辺のスパルタ人種の子供らはめいめいに小さな凧を揚げてそれを大凧の尾にからみつかせ、その断片を掠奪しようと争うのである。大・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・昔スパルタの教育に、狐を隠してその狐が自分の腸をえぐり出しても、なお黙っていたということがあるが、今はそういう痩我慢はなくなったのである。現今の教育の結果は自分の特点をも露骨に正直に人の前に現わす事を非常なる恥辱とはしないのであります。これ・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・ 対外文化協会発行のパンフレットは 新しい共同厨房の蒸気釜の写真をのせる。「食う準備」は人類が獣の皮を腰に巻きつけて棍棒と石でマンモスと戦った時代からの問題であった。 スパルタ以来最も台所から解放された市民はモスクと New Y・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫