・・・ ポオ ポオはスフィンクスを作る前に解剖学を研究した。ポオの後代を震駭した秘密はこの研究に潜んでいる。 森鴎外 畢竟鴎外先生は軍服に剣を下げた希臘人である。 或資本家の論理「芸術家・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・という言葉は、刻一刻に身体も顔も変ってきて、まったく一個のスフィンクスになっている。「自然主義とは何ぞや? その中心はどこにありや?」かく我々が問を発する時、彼らのうち一人でも起ってそれに答えうる者があるか。否、彼らはいちように起って答える・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 六百尺の、エジプトのスフィンクスの洞窟のような廃坑に、彼女は幽霊のように白い顔で立っていた。 彼は、差し出したカンテラが、彼女にぶつかりそうになって、始めてそれに気がついた。水のしずくが、足もとにポツ/\落ちていた。カンテラの火が・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・あのアポルロの石像のある処の腰掛に腰を掛ける奴もあり、井戸の脇の小蔭に蹲む奴もあり、一人はあのスフィンクスの像に腰を掛けました。丁度タクススの樹の蔭になって好くは見えません。主人。皆な男かい。家来。いえ、男もいますし女もいます。乞食・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・そこに巨きな鉄の罐が、スフィンクスのように、こっちに向いて置いてあって、土間には沢山の大きな素焼の壺が列んでいました。「いや今晩は。」ひとりのはだしの年老った人が土間で私に挨拶しました。「これが乾燥罐だよ。」ファゼーロが云いました。・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・今日有名なピラミッドや、スフィンクスが、何故、あの砂漠の真中に打ちたてられたろうか? 古代のエジプトの王が、全人民を奴隷として働かし得たからこそ、あの巨大なピラミッドもスフィンクスも作り得たのであって、それがなぜ他の古代の王国の文化の中に拡・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・彼の素晴らしい空想は、何時でもすきな時に私共を引攫って驚異の国の神、悪魔に、スフィンクスに引合わせる。彼の二重瞼の大きな眼は明るい太陽の真下でも、体中に油を塗りつけた宝玉商の Thengobrind が「死人のダイヤモンド」を盗もうとして耳・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ 人生は複雑である、むずかしい問題である。スフィンクスが眼をむいて出現して以来、人間が羽なき二足獣であって以来の問題である。高橋氏の「人生観」が人生を解き、黒岩氏の天人論が天と人との神秘を開いたる今日にも依然としてむずかしい。むずかしけ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫