・・・それに靴ぬぎもあれば革のスリッパもそろえてあり馬の尾を集めてこさえた払子もちゃんとぶらさがっていました。すぐ上り口に校長室と白い字で書いた黒札のさがったばらで仕切られた室がありそれから廊下もあります。教員室や教室やみんなばらの木できれいにし・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・水やスリッパや藁をたべて、それをいちばん上等な、脂肪や肉にこしらえる。豚のからだはまあたとえば生きた一つの触媒だ。白金と同じことなのだ。無機体では白金だし有機体では豚なのだ。考えれば考える位、これは変になることだ。」 豚はもちろん自分の・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・と独言のように云い、スリッパのうしろを鳴らしながら室を出て行った。高等主任だけが机の下にスリッパをおいていて、室にいるときはそれと穿きかえるのである。 留置場へ戻され、扉があいたと同時に第一房の前の人だかりが目に映り、自分は、もう駄・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・横を向いている頬ぺたのところや、爪先に引っかかったスリッパの尻尾が垂れ下っているところなど、なほ子は自分の感じをはっきり感じた。「こんなに描けるの? 詮吉さん」「偶然さ、君が余り余念なく見ているんで一寸面白いなと思ったもんだから。―・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・そしてまた折角さしたピンを落してしまわないようにと、むき出しの両腕を揃えて頭の上へ高くあげ、それなり半身を前へかがめている尚子の頭の方から、仮縫いの服を脱がしかけていると、廊下を、ゆっくりした足どりのスリッパの音が近づいて来た。尚子が耳敏く・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
出典:青空文庫