・・・ったら、批評家もほめてくれますよと答えたくらい、容貌に自信があり、林芙美子さんも私の小説から想像していた以上の、清潔な若さと近代性を認めてくれたのであるが、それにもかかわらず女にかけての成功率が殆んどゼロにひとしいのは、実は私の小説のせいで・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・死ぬとゼロだよ」「馬鹿! 何を言っていやがる。どだい、君、虫が好すぎるぞ。それは成る程、君も僕もぜんぜん生産にあずかっていない人間だ。それだからとて、決してマイナスの生活はしていないと思うのだ。君はいったい、無産階級の解放を望んでいるの・・・ 太宰治 「葉」
・・・もしもこれが無声であるかあるいは歌はあってもこの律動的な画像がなかったとしたら効果は二分の一になるどころかおそらくゼロになって、倦怠以外の何ものをも生じないであろう。 この律動的編成の巧拙の分かれるところがどこにあるかと考えてみると、こ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・安全地帯の危険率も、危険地帯の安全率もゼロではない。 二 ある会社のある工場に新たに就職した若い男が、就職後間もなく誰かから自分の前任者が二人まで夭死をしたこと、その原因がその工場で発生する毒瓦斯のためらしい・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・軍縮国防で十に対する六か七かが大問題であったのに、地震国防は事実上ゼロである。そうして為政者の間ではだれもこれを問題にする人がない。戦争はしたくなければしなくても済むかもしれないが、地震はよしてくれと言っても待ってはくれない。地震学者だけが・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ 鉛をかじる虫も、人間が見ると能率ゼロのように見えても実はそうでなくて、虫の方で人間を笑っているかもしれない。人間が山から莫大な石塊を掘りだして、その中から微量な貴金属を採取して、残りのほとんど全質量を放棄しているのを見物して、現在の自・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・たぶん一種の指数曲線か何かに従って、漸近的にゼロに向かって行くだろう。 こんな幸福があまり持続しては、困る事だろう。幸福も不幸福も、変化の瞬間が最高点で、それからあとは、大地震の余震のように消えて行く。 そのおかげで、われわれは、こ・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・capitalist から金をとり上げればゼロである。何にも出来ない。同様にあなた方から腕をとり上げても駄目である。われわれは腕も金もとり上げられてもいいが、人間をとり上げられてはそれこそ大変である。 あなた方の方では技術と自然との間に・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・日本の民主化を鼻であしらっていない編集者たちは、一冊の雑誌に右と左とをバランスさせて、さしひきゼロ、功罪なしと採料して貰うために苦心しているように見える。これは、ひとごととして見てすぎられるようなことではない。 昨今はいよいよ、事実・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
出典:青空文庫