・・・こまかいたて縞のすきとおる着物にうすい羽織を着た浅吉は、白扇をパチリ、パチリ鳴らしながらあんまり物を云わず、笑いもせず、木菟のような眼の丸い頬ぺたのふくらんだ顔で坐っている。そのすこし斜うしろにぺたりと薄い膝で坐った根下り丸髷にひっかけ帯の・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・愛は戸棚の、小さい箱根細工の箱から、銀貨、白銅とりまぜて良人の拡げた掌の上にチリン、チリンと一つずつ落した。「これがお風呂。これが三助。――これが――お土産」 禎一は、いい気持そうに髪の毛をしめらせ、程なく帰って来た。彼は、たっぷり・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・ 六十日以上風呂にも入れず、むけて来る足の皮をチリ紙の上へ落しながら、悠然とかまえてることさと云う時、その主任の云ったことを焙るように胸に泛べているのであった。自分は、金のことを云わなければ半年経とうが帰さないと脅かされて、放ぽり込んで・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・栄さんがあなたのシャツ類を編んでいてくれたのが待っていて、お茶をのんであのひとはかえり、私は島田の母様[自注8]が私へ下さったお手染のチリメンの半襟を又眺めなおして、いただいたコーセンをしまって、手伝いに来ているお婆さんをやすまして、それか・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ こうしてみると、青年の生活にとって特別な関係ある問題は、左をみれば婦人の今日の社会における種々の問題とキッチリ結ばれているし、右をみれば所謂おやじさん達の生活の根本問題と全くつながった線にあることが理解されるだろう。民主戦線という言葉・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・出した点、メイエルホリド一流の好みで、ロイド眼鏡をかけたフレスタコフが、ゆきつ戻りつ、ステッキをふって市長宅へ出かける場面で、大胆至極な赤銅ばりの柵で舞台を横断させ、動く人間を一本の強い線の左右にキッチリ統一させた手際、平凡ではない。だが、・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ワグラムへ出て迷う、日本クラブ鯛チリ 宮本百合子 「「道標」創作メモ」
・・・正月で、自分はチリメンの袂のある被布をきせられていた。母が急に縁側へ出て槇の木の下に霜柱のたっている庭へ向い「バンザーイ! バンザーイ!」と両手を高く頭の上にあげ、叫んだ。声は鋭く、顔は蒼く、涙をこぼしている。自分はびっくりして泣きたくなり・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 追いかけ追いかけの貧から逃れられない哀れな老爺が、夏の八月、テラテラとした太陽に背を焼かれながら小石のまじったやせた畑地をカチリカチリと耕して居る。其のやせた細腕が疲れるとどこともかまわず身をなげして骨だらけの胸を拡げたり、せばめたり・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・非番の老近侍は茶の上着を着て白と黒の縞のキッチリのズボン白い飾りのついた短靴をはいて飾りのついた剣をつるす。ふちのない上着と同色の帽子についた王家の紋章が動く毎に光る。第二の女の声は陽気で、第一第三の女はふくみ声でゆっくりと口をきく・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫