・・・ここのナンバーワンは誰かと訊いて、教えられたテーブルを見ると、銀糸のはいった黒地の着物をいちじるしく抜襟した女が、商人コートを着た男にしきりに口説かれていた。呼ぶとすらりとした長身を起して傍へ来た。豹一はぱっと赧くなったきりで、物を言おうと・・・ 織田作之助 「雨」
・・・交潤社は四条通と木屋町通の角にある地下室の酒場で、撮影所の連中や贅沢な学生達が行く、京都ではまず高級な酒場だったし、しかも一代はそこのナンバーワンだったから、寺田のような風采の上らぬ律義者の中学教師が一代を細君にしたと聴いて、驚かぬ者はなか・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・商業学校へ四年までいったと、うなずける固ぐるしい物の言い方だったが、しかし、だんだんに阿呆のようにさばけて、たちまち瞳をナンバーワンにしてやった。そして二月経ったが、手一つ握るのも躊躇される気の弱さだった。手相見てやろかと、それがやっとのこ・・・ 織田作之助 「雪の夜」
出典:青空文庫