日本の現代文学は、もっともっと、われわれの生きている現実の歴史の深さ、鋭さ、はげしさにふさわしい文学精神と方法との上に立て直されなければならない。この欲求は、こんにちのヒューマニティーの欲求として、公然と語られるものとなっ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・健康な人間が健康な人間を殺戮するために科学の精髄をつくして研究している、その莫大なエネルギーと費用の幾分でもが、人類にとって不幸きわまりないこの病菌からの解放のためにふりむけられることこそ、ヒューマニティーの義務であると思わずにいられない。・・・ 宮本百合子 「病菌とたたかう人々」
・・・ 新しい文学を語るとき、作者のヒューマニティーがどのような角度で題材そのものの人間性に結合してゆくかという点――結晶点が、注意ぶかく社会的にとりあげられていいと思う。 第二次大戦中、アメリカの前線報道員として命をおとしたアニー・パイ・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
・・・中里恒子の題材は、そのような日本の悲劇の追究をとおして、世界的な意味をもつヒューマニティーの課題である。民族の血の力に追いこまれた人々にふたたび高い人間的脱出を示す可能をひそめる題材である。けれども、中里恒子の文学はそういう環境の女性のしつ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 肉体が性にめざめるとき、時期をひとしくして人間の精神に自我が覚醒し、開花して来るというヒューマニティーの過程にこそ、思えば感動をおさえがたい人間の光栄がある。美しい十代は、小さい男性、小さい婦人たちとして、性が開花に向いつつ、それが蕾・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
・・・ だからこそ、ヒューマニティーによる、理性の不屈従に、高貴な行動的意義があります。不滅の勝利があります。 二十世紀の現代においては、理性がいかに永続的に、且つ現実的に操作されうるかという能力にこそ、歴史の勝敗がかかっている。・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・日本文学史の中で、近松の作品が持っている最も本質的な価値は、この封建の社会の中にあって封建のしきたり、道徳観、身分制などというものと、むき出しの人間性、ヒューマニティーというものがどのように葛藤し、もがき、悲劇的な終結を持たなければならなか・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・過去五年の間、日本の新しいヒューマニティーの成長のために何かの希望と善意を示して来たすべての人々、なかでも文学者は、現代の世紀の良心の前にすでに正直な自身というものを露出させて来たのだから、たとえ六月二十五日以後、どこにどのような事態がひき・・・ 宮本百合子 「私の信条」
出典:青空文庫