・・・二等寝台車、各々一輛ずつと、ほかに郵便やら荷物やらの貨物三輛と、都合九つの箱に、ざっと二百名からの旅客と十万を超える通信とそれにまつわる幾多の胸痛む物語とを載せ、雨の日も風の日も午後の二時半になれば、ピストンをはためかせて上野から青森へ向け・・・ 太宰治 「列車」
・・・すなわち腕を、横から大廻しに廻して殴るよりは腋下からピストンのようにまっすぐに突きだして殴ったほうが約三倍の効果があるということであった。まっすぐに突きだす途中で腕を内側に半廻転ほどひねったなら更に四倍くらいの効力があるということをも知った・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・手首が硬直凝固の状態になっていてはキューのまっすぐなピストン的運動が困難であるのみならず、種々の突き方に必要なキューの速度加速度の時間的経過を自由に調節することも不可能であるように見える。特に軽快な引き球などのできるとできないは主としてこの・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・石油が細いピストンのようなものの間から吹き出して、私のブラウズの胸にかかった。おやと云っているまにもう風に散らされ、しみが微かにのこったばかりである。汲出櫓の上に登っているのであるが、右手を見ると、粗末な石垣のすぐそこから曇天と風とで荒々し・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・彼等は、自分たちが訪問することさえ思いつかなかったセミョーノフの不潔きわまる地下室「日がな一日沸ぎっている湯が眠そうに、気懶るそうにピストンを動かし」「濃い、臭い、いきれ立つ湯気の中で」日頃彼等の夢想しつつある民衆の新たな一典型が成長しつつ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫