・・・やユーゴーの「レ・ミゼラブル」の英語の抄訳本などをおぼつかない語学の力で拾い読みをしていた。高等学校へはいってから夏目漱石先生に「オピアム・イーター」「サイラス・マーナー」「オセロ」を、それもただ部分的に教わっただけである。そのころから漱石・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・今のブル対プロに当たるであろう。歴史は繰り返すのである。「諸学須知」「物理階梯」などが科学への最初の興味を注入してくれた。「地理初歩」という薄っぺらな本を夜学で教わった。その夜学というのが当時盛んであった政社の一つであったので、時々そう・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ ブルルル。ブルルル。ブルブルブルッ。 窓の下から三間とはなれぬ往来で、森田屋の病院御用自動車が爆鳴する。小豆色のセーターを着た助手が、水道のホーズから村山貯水池の水を惜気もなく注いで、寝台自動車に冷たい行水を使わせている。流れた水・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・ 二三日前にある友人とガリレーやブルノやデカルトの話をした。そうして、学説と生命とを天秤にかけた三人が三様の解決を論じた。その時に頭を往来した重苦しい雲のようなものの中に何かしらこういう夢を見させるものがあったかもしれない。 ブルノ・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・ 善ニョムさんも、ブルブルにふるえているほど怒っていた。いきなり、娘の服の襟を掴むとズルズル引き摺って、畑のくろのところへ投り出してしまった。 その夕方、善ニョムさんは、息子達夫婦よりも、さきに帰って何喰わぬ顔して寝ていた。・・・ 徳永直 「麦の芽」
・・・それは恰も今の社会組織そっくりじゃないか。ブルジョアの生きるために、プロレタリアの生命の奪われることが必要なのとすっかり同じじゃないか。 だが、私たちは舞台へ登場した。 二 そこは妙な部屋であった。鰮の罐詰の内部の・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ すると不意に流れの上の方から、 「ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ、ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ」とけたたましい声がして、うす黒いもじゃもじゃした鳥のような形のものが、ばたばたばたばたもがきながら、流れて参りました。 ホモ・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・大将「次は果樹整枝法その三、カンデラーブル。ここでは二枝カンデラーブル、U字形をつくる。この時には両肩と両腕とでUの字になることが要領じゃ、徒にここが直角になることは血液循環の上からも又樹液運行の上からも必要としない。この形になることが・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ 蝶、蜂、蟻などの物語は第十話第十一話にあるが、この章へ来てフランスのアンリ・ファーブルの「昆虫記」を思い出さない読者はおそらく一人もないだろう。ファーブルの昆虫記は卓抜精緻な観察で科学上多くの貢献をしているし、縦横に擬人化したその描写・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 指の先まで鼓動が伝わって来る様で旅費のお札をくる時意くじなくブルブルとした。 今頃私が立つ様になろうとは思って居なかった祖母は私に下さるお金をくずしにすぐそばの郵便局まで行って下すった。 四角い電燈の様なもののささやかな灯影が・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
出典:青空文庫