・・・人道主義的なマルキストであり、感傷的な文学少年、数学の出来なかったぼくは、ひどい自涜の為もあったのでしょう、学校に友達なく、全く一人で、姉、近所のW大生、小学時代の親友、兄夫婦も加えて、プリント雑誌『素描』を二年続けました。兄の運動の為、父・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・もし講義の内容が抜け目なく系統的に正確な知識を与えさえすればいいとならば、何も器械の助けを借りるまでもなくその教師の書いた原稿のプリントなり筆記なりを生徒に与えて読ませれば済む場合もあるわけである。甲の講義を乙が述べてもそれでたくさんなわけ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
私も頂きました資料をよんで感じたことですけれども、やっぱり主人公である浦和充子が、子供を一人でなく三人までも殺したという気持が、このプリントに書かれてある範囲ではわからないのです。あれを読みますと、お魚に毒を入れて煮て、そ・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・手に何かプリントをもってその少女と話してる年長のピオニェール少年。芝居行の靴下をはき、オカッパの上へセルロイド櫛をさした若い細君が、時々気にしては新しい藤色フランス縮緬の襟飾に手をやりながら、紺のトルストフカの亭主によりそって四辺を見まわし・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・鍵がうまく合わない。プリントをもって後を通りすがった男が、 ――開かないのか? ――うん、ミーシャが今いないんだ。 その廊下のもう一方の側にもずらりと同じような室が並んでいる。 戸が開いた。 が、日本女はいそがず、見るも・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・また議論はじめる。プリントをわきへおいてよみながら食事をして、読む方も食う方もまけず劣らず活溌にやってるルバーシカの男がいる。―― ワロフスキー通の作家クラブへ行って見よう。 ここは、もと象徴派の詩人ソログープの邸宅だった。一九三〇・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
出典:青空文庫