・・・ 何が出るかと思って、緊張している、大勢の頭上の空中に、一団の大きな黄黒色のボアのような煙の団塊が一つ出来た。そしてただそれだけであった。煙は次第次第に乱れて拡散して、やがてただ一抹の薄い煙になってやがて消えてしまった。 花火船の艫・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・そうかといって太平のシャンゼリゼーの大通りやボアの小道を散歩するのに、まさか弓矢や人殺し用の棍棒や台所用のパン棒を携えるわけにも行かないから、その代わりに何かしら手ごろな棒きれを持つことになったのではないかとも想像される。とにかく昔のシナで・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・少し霧がかかってはいるが、サンデニからボアのほうまでも見渡される。鐘楼の下の扉が開いて女が顔を出した。そして塔へ上りますかといって塔の入り口の扉を開く。「おりて来たらここをたたいてください」といって、ドンドン扉をたたいて見せて、私を塔の・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
出典:青空文庫