・・・あの会合は本尊が私設外務大臣で、双方が探り合いのダンマリのようなもんだったから、結局が百日鬘と青隈の公卿悪の目を剥く睨合いの見得で幕となったので、見物人はイイ気持に看惚れただけでよほどな看功者でなければドッチが上手か下手か解らなかった。あア・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ この結論に達するまでの理路は極めて井然としていたが、ツマリ泥水稼業のものが素人よりは勝っているというが結論であるから、女の看方について根本の立場を異にする私には一々承服する事が出来なかった。が、議論はともあれ、初めは微酔気味であったの・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・――この経は、サダマリというのだ。そして、義は、ここでは道理という意味であって、民は即ち人、行はこれをツトメというのだ。」と、老先生は、教えていられました。賢一は、頭を垂れて、書物の上を見つめて、先生のおっしゃることを、よく心に銘じてきいて・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・ この命令に押し飛ばされて、二人はゴムマリのように隊を飛び出すと、泡を食って農家をかけずり廻った。 ところが、二人はもともと万年一等兵であった。その証拠には浪花節が上手でも、逆立ちが下手でも、とにかく兵隊としての要領の拙さでは逕庭が・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・一日、一日、カク手ガ氾濫シテ来テ、何ヲ書イテモ、ドンナニ行儀ワルク書イテモ、ドンナニ甘ッタレテ書イテモ、ソレガ、ソンナニ悪イ文章デナシ、ヒトトオリ、マトマリ、ドウニカ小説、佳品、トシテノ体ヲ為シテイル様、コレハ危イ。スランプ。打チサエスレバ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・私と並んで、マリアナ・ミハイロウナが歩いている。 二人は黙って歩いている。しかし、二人の胸の中に行き交う想いは、ヴァイオリンの音になって、高く低く聞こえている。その音は、あらゆる人の世の言葉にも増して、遣る瀬ない悲しみを現わしたものであ・・・ 寺田寅彦 「秋の歌」
・・・その男の変った所説の一例を挙げると、自分が風邪を引いて熱を出したりしたとき「アンマリ御馳走を喰べ過ぎるんじゃあないですか」と云ってはにやにや笑うのであった。 御馳走を喰うと風邪を引くというのは一体どういう意味だか分からなかった。御馳走を・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・一通りの挨拶をするのが礼だそうだが、落天の奇想を好む余はさような月並主義を採らない、いわんやベルを鳴したり手を挙げたり、そんな面倒な事をする余裕はこの際少しもなきにおいてをやだ、ここにおいてかこのダンマリ転換を遂行するのも余にとっては万やむ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ というと、つまり、『改造』に発表された方のはアンマリ成功していないということになる。作者の主観的な、古風な言葉でいえばある述懐というようなものは理解できる。が、作品は註つきでよませる物ではないから、あの二つは、いおうとすることを、はっ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・そして、彼が自分の子供たちに皆マリ、アンヌ、オットウ、ルイなどという西洋の名をつけていたことに思い到り、しかもそれをいずれも難しい漢字にあてはめて読ませている、その微妙な、同時に彼の生涯を恐らく貫ぬいているであろう重要な心持を、明治文学研究・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
出典:青空文庫