・・・ 気晴しにマンドリンを弾く。 左の第二指に出来た水ぶくれが痛んで音を出し辛い。 すぐやめて仕舞う。 西洋葵に水をやって、コスモスの咲き切ったのを少し切る。 花弁のかげに青虫がたかって居た。 気味が悪いから鶏に投げてや・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ それでよいから、次手に、マンドリンの第一の絃を二本持って来て下さいと云ってやる。 楽器屋や本屋の取次が、はきはきして居ないのはほんとうに気持が悪いと思う。 早口で云われるとききとれない様な頭では駄目じゃあないかと思ったりして居・・・ 宮本百合子 「一日」
・・・ 離れの方から マンドリンとピアノの合奏がきこえて来る。◎ひどく雨が降っている。 ○遠くの方で、屋根越しに松の梢がまばらに大きく左右へはり出した枝を ゆすっているのが雨中に見える。 ○柿の木がすっかり葉をおとし、いくつか・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・ 音楽サークル室からは、今夜の余興のマンドリン合奏の稽古をやっている音が洩れる。 戸のところに誰か立ち番していて、外からあけようとすると、「一寸だめだよ! 何用?」と、一々きいているのは、演劇サークル員たちがぎっしりつまって・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・飾窓へやっと一つ着付人形を買う――あの時分の楽しかったこと……その時分からエーゴルはマンドリンが上手くてね、町で評判だった。自分が弾いては私によく踊らせたもんだわ。……そうこうしてやっとまあ食うに困らない目当がつくようになったかと思うと、ど・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫