・・・もし又ランニングを学ばないものに駈けろと命ずるものがあれば、やはり理不尽だと思わざるを得まい。しかし我我は生まれた時から、こう云う莫迦げた命令を負わされているのも同じことである。 我我は母の胎内にいた時、人生に処する道を学んだであろうか・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・皆真赤なランニング襯衣で、赤い運動帽子を被っている。彼等を率いた頭目らしいのは、独り、年配五十にも余るであろう。脊の高い瘠男の、おなじ毛糸の赤襯衣を着込んだのが、緋の法衣らしい、坊主袖の、ぶわぶわするのを上に絡って、脛を赤色の巻きゲエトル。・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 節子は、あさましく思った。このまま帰ろうかと思った。 ランニングシャツにパンツという姿で、女中の肩にしなだれかかりながら勝治は玄関にあらわれた。「よう、わが恋人。逢いたかった。いざ、まず。いざ、まず。」 なんという不器用な・・・ 太宰治 「花火」
・・・考えようによってはランニングや砲丸投げなどのレコードよりもより多く文化的の意義があるかもしれない。体力だけを練るのは未開時代への逆行である。 タイピストの一九二九年のレコードは一分に九十六語でこれはフランスの某タイプ嬢の所有となっている・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・そしてテニスだのランニングも必要だと云って盛んにやっている。諸君はテニスだの野球の競争だなんてことはやらない。けれども体のことならもうやりすぎるくらいやっている。けれどもどっちがさきに進むだろう。それは何といっても向うの方が進むだろう。その・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫