・・・そこで仕方がございませんから、まず一休み休むつもりで、糸の中途にぶら下りながら、遥かに目の下を見下しました。 すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた血の池は、今ではもう暗の底にいつの間にかかくれて居ります。それから・・・ 芥川竜之介 「蜘蛛の糸」
・・・ ちょっと立どまって、大爺と口を利いた少いのが、続いて入りざまに、「じゃあ、何だぜ、お前さん方――ここで一休みするかわりに、湊じゃあ、どこにも寄らねえで、すぐに、汽船だよ、船だよ。」 銀鎖を引張って、パチンと言わせて、「出帆・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・お言葉に従って一休みして行こうか。ちょうどお誂え、苔滑……というと冷いが、日当りで暖い所がある。さてと、ご苦労を掛けた提灯を、これへ置くか。樹下石上というと豪勢だが、こうした処は、地蔵盆に筵を敷いて鉦をカンカンと敲く、はっち坊主そのままだね・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・よろこび勇んで四人はとある漁船のかげに一休みしたのであるが、思わぬ空の変わりようにてにわかに雨となった。四人は蝙蝠傘二本をよすがに船底に小さくなってしばらく雨やどりをする。 ふたりの子どもを間にして予とお光さんはどうしても他人とはみえぬ・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・そこらで一休みしましょうか」 お千代の暢気は果てしがない。おとよの心は一足も早く妙泉寺へいってみたいのだ。「でもお千代さんここは姫島のはずれですから、家の子はすぐですよ。妙泉寺で待ち合わせるはずでしたねい」 こういわれてようやく・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・峠を越して半ほどまで来ると、すぐ下に叔母の村里が見えます、春さきは狭い谷々に霞がたなびいて画のようでございました、村里が見えるともう到いた気でそこの路傍の石で一休みしまして、母は煙草を吸い、私は山の崖から落ちる清水を飲みました。 叔母の・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・』 ここらで私たちも一休みしましょう。どうです。少しでも小説を読み馴れている人ならば、すでに、ここまで読んだだけでこの小説の描写の、どこかしら異様なものに、気づいたことと思います。一口で言えば、「冷淡さ」であります。失敬なくらいの、「そ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・どこまで行ったら一休み出来るとか、これを一つ書いたら、当分、威張って怠けていてもいいとか、そんな事は、学校の試験勉強みたいで、ふざけた話だ。なめている。肩書や資格を取るために、作品を書いているのでもないでしょう。生きているのと同じ速度で、あ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・私たちは、その中畑さんのお家で一休みさせてもらって、妻と園子は着換え、それから金木町の生家を訪れようという計画であった。金木町というのは、五所川原から更に津軽鉄道に依って四十分、北上したところに在るのである。 私たちは中畑さんのお家で昼・・・ 太宰治 「故郷」
・・・神社では、また一休み。神社の森の中は、暗いので、あわてて立ち上って、おお、こわこわ、と言い肩を小さく窄めて、そそくさ森を通り抜け、森のそとの明るさに、わざと驚いたようなふうをして、いろいろ新しく新しく、と心掛けて田舎の道を、凝って歩いている・・・ 太宰治 「女生徒」
出典:青空文庫