・・・これを強いて一纏めに命名すると、一を観音力、他を鬼神力とでも呼ぼうか、共に人間はこれに対して到底不可抗力のものである。 鬼神力が具体的に吾人の前に現顕する時は、三つ目小僧ともなり、大入道ともなり、一本脚傘の化物ともなる。世にいわゆる妖怪・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・その他にも、私には三つ、四つ、そういう未発表のままの、謂わば筐底深く秘めたる作品があったので、おととしの早春、それらを一纏めにして、いきなり単行本として出版したのである。まずしい創作集ではあったが、私には、いまでも多少の愛着があるのである。・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ もし出来るならば、多数の歌人が銘々に口調のいいと思う歌を百首くらいずつも選んで、それらの材料を一纏めにして統計的に前述の波数や波長の分配を調べてみたら何かしら多少ものになるような結果が得られはしないかと考えるのである。 このような・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
大抵のイズムとか主義とかいうものは無数の事実を几帳面な男が束にして頭の抽出へ入れやすいように拵えてくれたものである。一纏めにきちりと片付いている代りには、出すのが臆劫になったり、解くのに手数がかかったりするので、いざという・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・余はその中から子規が余に宛てて寄こした最後のものと、それから年月の分らない短いものとを選び出して、その中間に例の画を挟んで、三つを一纏めに表装させた。 画は一輪花瓶に挿した東菊で、図柄としては極めて単簡な者である。傍に「是は萎み掛けた所・・・ 夏目漱石 「子規の画」
・・・あるいは何主義とか号してその主義を一纏めに致します。これは科学にあっても哲学にあっても必要の事であり、また便宜な事で誰しもそれに異存のあるはずはございません。例えば進化論とか、勢力保存とか云うとその言葉自身が必要であるばかりでなく、実際の事・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・みんな長くは持たない人ばかりだそうですと看護婦は彼らの運命を一纏めに予言した。 自分は縁側に置いたベゴニアの小さな花を見暮らした。実は菊を買うはずのところを、植木屋が十六貫だと云うので、五貫に負けろと値切っても相談にならなかったので、帰・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・其後、全体を一纏めにする為にひどく時間をかけたし、印刷にかかってからも手間どり、今は事実上旧作になった。然し、この作品は自分の生活と密接な関係のあったものだし、作の上に年輪のように発育の痕跡が現れて居る点、自分は愛を感じて居る。 昭・・・ 宮本百合子 「序(『伸子』)」
・・・これ等の実例でも明かのように、文化芸術に於けるファッシズムは決して或る限界線の向う側にだけ一纏めに固まっていて、その線のこっち側は綺麗だというものではない。一冊の雑誌を取ってみても、一枚の新聞の中にも、或は喫茶店でされる会話の中にも、ファッ・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・社会は無政府主義者を一纏めに迫害しているから、こっちも社会を一纏めに敵にする。無辜の犠牲とはなんだ、社会に生きているものに、誰一人労働者の膏血を絞って、旨い物を食ったり、温い布団の上に寝たりしていないものはない。どこへ投げたって好いと云うの・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫