・・・きに犇めきとおして遂に、悲劇的終焉を迎えたが、佐橋は君主である家康が己に気を許さぬ本心を知ったとき、恐ろしく冷やかな判断で、そのように狭くやがては己が身の上に落ちかかって来るに相異ない封建の垣を我から一飛びに飛び越して逐電した。鴎外はこの性・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ポチは、砂を蹴って父の傍から離れると、一飛び体をくねらせ、傍の晴子の頬の辺を嘗めた。父がまるでむきな調子で、「晴子、嘗められた」と嫌悪を示した。それらが何だかしきりに佐和子の心を打った。平常一緒に生活していないうちに、いつか父は犬の・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・ 必ずそのときには悪魔か神かに突きあたってぶらぶらしてしまうより方法はないが、何かかけ声のようなものをかけ、一飛びに無理をそのまま捻ぢ倒してしまってふうふうという。つまりそのときは明らかに自分が負かされてしまっているのだ。それを明瞭に感・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫