・・・そこではすべてが善意と礼儀ぶかさからとり行われ、京都からの生香魚料理万端よろしいのであるが、有三氏は、どちらかというと片苦しげに想像される客間での会話で、この麗わしき天然の日本では、彼自身の長篇小説が数年前朝日新聞へ続載不可能となったことが・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・ だから、下らない意地は捨てる方が得、ね、ウンと承知すりゃあ、万事万端めでたしめでたしで納まろうってもんだ。 え! 承知しなさい、その方が得だよ」 激しい強迫観念に襲われて、あらゆる理性を失ってしまった禰宜様宮田は番頭の言葉を聞・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・町人に生まれ、折から興隆期にある町人文化の代表者として、西鶴は談林派の自在性、その芸術感想の日常性を懐疑なく駆使して、当時の世相万端、投機、分散、夜逃げ、金銭ずくの縁組みから月ぎめの妾の境遇に到るまでを、写実的な俳諧で風俗描写している。住吉・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ 自由になって、まだ十日余りしかたたない重吉のとりなし万端に、ひろ子のこころを動かしてやまないものがあった。 十四日の朝、二人がやっと口をきけるようになったとき、重吉はひろ子に、「どうだろう」と相談した。「みんなに一応挨・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ よみ難かった母の原稿の浄書から印刷に関する煩瑣な事務万端について援助を惜しまれなかった私の親友壺井栄夫人に感謝する次第である。〔一九三五年七月〕 宮本百合子 「葭の影にそえて」
・・・一つの窓もない箱の中に、昼間の電燈がキラキラして、手をのばせば、万端の用事が済むように出来ています。何と能率的でしょう。でもまた、何と薬局めいているでしょう。ベッドにしても、それが開いて下りて来ると殆ど室一杯になって、本を読むせきもないよう・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
出典:青空文庫