・・・私たちは、やっと、東京の三鷹村に、建築最中の小さい家を見つけることができて、それの完成ししだい、一か月二十四円で貸してもらえるように、家主と契約の証書交して、そろそろ移転の仕度をはじめた。家ができ上ると、家主から速達で通知が来ることになって・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ と玄関で女のひとの声がして、私が出て見ると、それは三鷹の或るおでんやの女中であった。「前田さんが、お見えになっていますけど。」「あ、そう。」 部屋の出口の壁に吊り下げられている二重廻しに、私はもう手をかけていた。 とっ・・・ 太宰治 「父」
・・・そのとしの初秋に東京市外、三鷹町に移住した。もはや、ここは東京市ではない。私の東京市の生活は、荻窪の下宿から、かばん一つ持って甲州に出かけた時に、もう中断されてしまっていたのである。 私は、いまは一箇の原稿生活者である。旅に出ても宿帳に・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・さき頃の映画の東宝問題というものがでると、誰にもファシズムの反動文化政策というものが分るし、まして、この頃のような社会情勢に対してファシズムの圧力を感じ、それに対して反対の声をあげない人はありません。三鷹事件、下山事件の新聞記事の扱いかたな・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・そういう内容のことがらを、政府の労働者階級抑圧のためのねつ造が大きく作用している下山、三鷹、松川、平の事件などと並べ、その大部分がいかにもあいまいで、うそでないにしても、ほんとの程度がはっきりしないと、していることは、こんにちの知識人の常識・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 今年の前半は去年から引続き三鷹事件の公判が続くでしょう。この公判には組合の人々も都合して一人でも多く傍聴する必要があります。検事が不当な取調べをしたと云う事は公判第一日から五回迄の陳述の中に、ハッキリ述べられています。林弁護人の陳述の・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
去る十一月一日発行の『文学新聞』に評論家の佐藤静夫氏が三鷹事件の被告宮原直行さんの令兄にインタービューしたときのルポルタージュがのせられていた。商業新聞のやりかたにいためられてはじめは会うのも話をするのもいやがっていた令兄・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 七月十五日の三鷹事件では飯田七三氏、山本久一氏の二人が容疑者として十七日に逮捕された。七月十八日の各紙に出ている逮捕理由はおおざっぱで独断的ですべての常識ある人には奇妙に思われるものだった。吉村隊長でさえ、検事局はあれだけ全国的に事実・・・ 宮本百合子 「犯人」
三鷹、松川事件、どちらも労働者階級の闘いの歴史にとってきわめて重大な教訓をしめしていると思います。事件の具体的な内容についてはどちらもすべて明らかになってきています。 私たちが真剣に学びとらなければならないことは、これ・・・ 宮本百合子 「ふたつの教訓」
・・・下山事件。三鷹事件。そのどれもが窮乏に耐えがたくなっているわたしたち人民の心に何かの気味わるさを感じさせ、抵抗している感情に疑惑を抱かせる政治的効果をねらって成功しています。世界平和大会が「世論を毒する宣伝を無力なものにするために、真理と理・・・ 宮本百合子 「わたしたちには選ぶ権利がある」
出典:青空文庫