・・・ 植木屋が入ったと見え、駒込の家の玄関傍に、始めて見る下草の植込みが拵えてあった。薄すり紫がかった桃色の細かい花が、繊い葉の間に咲いている。それを見ながら、なほ子は呼鈴も押さず、暗い板の間へ通って行った。茶の間の戸を開けようとしていると・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・松林の下草の具合、土の感じ、灌木の形などは、この探求の道においてきわめて鋭敏に子供によって観察される。茸の見いだされ得るような場所の感じが、はっきりと子供の心に浮かぶようになる。彼はもはや漫然と松林の中に茸を探すのではなく、松林の中のここか・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・それが大きい樹にも見られれば、下草の小さい木にも見られる。 私が初めて東山の若王子神社の裏に住み込んだのは、九月の上旬であったが、一月あまりたってようやく落ちついて来たころに、右のような色の動きが周囲で始まった。書斎の窓をあけると、驚く・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫