・・・ ――――――――――――――――――――――――― 保吉は教官室の机の前に教科書の下調べにとりかかった。が、ジャットランドの海戦記事などはふだんでも愉快に読めるものではない。殊に今日は東京へ行きたさに業を煮やし・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・ 恥 保吉は教室へ出る前に、必ず教科書の下調べをした。それは月給を貰っているから、出たらめなことは出来ないと云う義務心によったばかりではない。教科書には学校の性質上海上用語が沢山出て来る。それをちゃんと検べて置かない・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・何で忙がしいかと訊くと、或る科学上の問題で北尾次郎と論争しているんで、その下調べに骨が折れるといった。その頃の日本の雑誌は専門のものも目次ぐらいは一と通り目を通していたが、鴎外と北尾氏との論争はドノ雑誌でも見なかったので、ドコの雑誌で発表し・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・白石は、江戸小日向にある切支丹屋敷から蛮語に関する文献を取り寄せて、下調べをした。 シロオテは、程なく江戸に到着して切支丹屋敷にはいった。十一月二十二日をもって訊問を開始するようにきめた。ときの切支丹奉行は横田備中守と柳沢八郎右衛門のふ・・・ 太宰治 「地球図」
・・・そのベデカはちゃんと一度下調べをしてところどころ赤鉛筆で丁寧にアンダーラインがしてあった。ある室へ来た時にそこのある窓の前にみんなを呼び集め、ベデカの中の一行をさしながら、「この窓から見ると景色がいいと書いてある」と言って聞かせた。一同はそ・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・夫人は、同じ灯の下で、明日の下調べをしたり、手紙を書いたり、時には長閑に編物などを弄る。―― けれども、一週間の他の三日、火、水、土の昼間は、R夫人も却々多忙で家事の多くを弁じなければなりません。 先ず火曜日は、先週の日曜の朝代えた・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫