・・・……そちこち御註文の時刻でございますから、何か、不手際なものでも見繕って差し上げます。」「都合がついたら、君が来て一杯、ゆっくりつき合ってくれないか。――私は夜ふかしは平気だから。一所に……ここで飲んでいたら、いくらか案山子になるだろう・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・にも、いくら本屋の人からそう書けと命令されても、さすがに自慢は書けず、もともと自分の小説の幼稚にして不手際なのには自分でも呆れているのであるから、いよいよ宣伝などは、思いも寄らぬ事の筈であるが、けれども、いま自分の書きかけの小説「右大臣実朝・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・女の子の財布には、その子供自身で針金ねじ曲げてこしらえた指輪なんかがはいっていて、その不手際の、でこぼこした針金の屈曲には、女の子のうんうん唸って、顔を赤くして針金ねじ曲げた子供の柔かいちからが、そのまま、じかに残っていて、彎曲のくぼみくぼ・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ 警告を発するならば、先ず運輸省の不手際に対して発せらるべきである。更には、存在の無意義さによって解消しつつある厚生省が、社会施設として、それぞれの地区の住民に欠くべからざる托児所、子供の遊場をこしらえる力さえなかったことに向って、警告・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ 放送の国家管理という不手際で高びしゃなやりかたや、新聞のゼネストをこわすために暴力をふるったことなどは、目にまざまざと見える「五月一日ぎらい」のあらわれである。 文化の面にも同じ気分が支配していて、学生の政治行動を禁じている。今日・・・ 宮本百合子 「メーデーぎらい」
・・・ 政府は不手際な強制供出方法によって供出を拒んだ農民は投獄されなければならない規定までこしらえた。都市消費者が、供出しない農民を怨み、窮した揚句に都市内が騒がしくでもなるとしたら、どういう結果になるだろうか。その動揺こそ、今は表面から姿・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫