・・・だとか「神州不滅」だとか「勝ち抜くための貯金」だとか、相変らずのビラが貼ってあった。私は何となく選挙の終った日、落選者の選挙演説会の立看板が未だに取り除かれずに立っている、あの皮肉な光景を想いだした。 標語の好きな政府は、二三日すると「・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・ 信仰を求める誠さえ失わないならば、どんなに足を踏みすべらし、過ちを犯し、失意に陥り、貧苦と罪穢とに沈淪しようとも、必ず仏のみ舟の中での出来ごとであって、それらはみな不滅の生命――涅槃に達する真信打発の機縁となり得るのである。その他のも・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・此の、ひきむしられるような凄しさの在る限り、文学も不滅と思われますが、それも私の老書生らしい感傷で、お笑い草かも知れませぬ。先生御自愛を祈ります。敬具。 六月十日木戸一郎 井原退蔵様 拝復。 先日は、短篇集と・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・キミノ仕事ノコルヤ、ワレノ仕事ノコルヤ。不滅ノ真理ハ微笑ンデ教エル、「一長一短。」ケサ、快晴、ハネ起キテ、マコト、スパルタノ愛情、君ノ右頬ヲ二ツ、マタ三ツ、強ク打ツ。他意ナシ。林房雄トイウ名ノ一陣涼風ニソソノカサレ、浮カレテナセル業ニスギズ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・何百年、何千年経っても不滅の名を歴史に残しているほどの人物は、私たちには容易に推量できないくらいに、けたはずれの神品に違いない。羽左衛門の義経を見てやさしい色白の義経を胸に画いてみたり、阪東妻三郎が扮するところの織田信長を見て、その胴間声に・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・生きていることへの感謝の念でいっぱいの小説こそ、不滅のものを持っている。審判 人を審判する場合。それは自分に、しかばねを、神を、感じているときだ。無間奈落 押せども、ひけども、うごかぬ扉が、この世の中にある。・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ つまらない事ではあるが、拘留された俘虜達が脱走を企てて地下に隧道を掘っている場面がある、あの掘り出した多量な土を人目にふれずに一体どこへ始末したか、全く奇蹟的で少なくも物質不滅を信ずる科学者には諒解出来ない。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・ 実験としての文学と科学 たとえば勢力不滅の方則が設定されるまでに、この問題に関して行なわれた実験的研究の数はおびただしいものであろう。たとえば大砲の砲腔をくり抜くときに熱を生ずることから熱と器械的のエネルギーとの関・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ セザンヌがりんごを描くのに決して一つ一つのりんごの偶然の表象を描こうとはしなかった、あらゆるりんごを包蔵する永遠不滅のりんごの顔をカンバスにとどめようとして努力したという話がある。科学が自然界の「事実」の顔を描写するのはまさにかくのご・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ だんだん山が険しくなって、峰ははげた岩ばかりになり、谷間の樅やレルヘンの木もまばらになり、懸崖のそこかしこには不滅の雪が小氷河になって凍った滝のようにたれ下がっていた。サンゴタールのトンネルを通ってから食堂車にはいるとまもなくフィヤワ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫