・・・五、不誠実。悪巧をする。狡猾であり、詭計を以て掠め取るということ。六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一つの刺七、彼が約束を守らぬということ。 その他、到れり尽せりの人身攻撃を受けたようである。 今官一君が、いま、・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・ 若し、我々が、人生を只食って生きて安わして行く為のみの実在と認めないならば、種々偶然的な境遇の力に支配されて、大切な人間の核心を失って行くものを、已を得ぬこととして傍観する自他の不誠実だけは、極力排けて行きたく思うのです。 性格の・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・そうして、ほんとうの生の頽廃まで行かないにしても、とにかく道義的脊骨を欠いた、生に対して不誠実な、なまこのような人間になってしまいます。これは確かに大きい危険です。 それでは青春を厳格に束縛し鍛錬して行くのがいいか。――もちろんそれはい・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・彼らは極度の不誠実を現わす。しかもなお自ら誠実な男だと信じている。最も徹底したように見えるJにおいてさえもそうである。彼はその全興味を注いで、享楽を尊重するために、人間の尊貴と美とを蹂躙するようなものを書く。そこでは彼は悪と醜の讃美者である・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・肉体の苦しみよりもむしろ虚偽と不誠実との刺激に苦しみもがいていた病人が、その瞬間に宿命を覚悟し、心の平静と清朗とを取り返すのを見た時、私の心はいかに異様な感情に慄えたろう。……私は感謝し喜び、そうして初めてまじり気のない感情でしみじみと病人・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫