・・・原書のみにて人を導かんとするも、少年の者は格別なれども、晩学生には不都合なり。 二十四、五歳以上にて漢書をよく読むという人、洋学に入る者あれども、智恵ばかり先ばしりて、乙に私の議論を貯えて心事多きゆえ、横文字の苦学に堪えず、一年を経・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・そのほか叱るべきことあるも父母の気向次第にて、機嫌の善き時なればかえってこれを賞め、機嫌悪しければあるいはこれを叱る等の不都合は甚だ尠なからず。 全体これらの父母たるものが、教育といえばただ字を教え、読み書きの稽古をのみするものと心得、・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・政治経済は有用の学なり、大人にしてこれを知らざるは不都合ならん。今一歩を譲り、人生は徳義を第一として、これに兼ぬるに物理の知識をもってすれば、もって社会の良民たるに恥じず。経世の学は必ずしもこれを学問として学ばざるも、おのずから社会の実際に・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・よほどの仲よしか、親類ででもなければ、電話で用だけ足して会わないで帰っても何とも云えない風習ですから、家中空になっても私共が、日本で経験するような不便、不都合はありません。 で、二人とも学校の時は、勿論昼食は外ですませます。学校の中に、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 親友のないために不都合な時より都合の好い場合の方が多かった。 貴方の一番御親しくなすっていらっしゃるのは? よく人はこんな事をきく。 そのたんびに千世子はだまって笑いながら沢山の本に目を注いで居た。 近頃余計に・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・第二に、いつの時代からか、男ばかり主の社会となり、女性は陰で苦しい思いや不都合や云いたくても云えない思いを胸一杯にして生活していた。それ故、確りした、ものの云える女性は、我知らず女全体の代弁者的立場に自分を置き、冷静に批評した男性を作中に描・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
・・・一体日本で県より小さいものに郡の名をつけているのは不都合だと、吉田東伍さんなんぞは不服を唱えている。閭がはたして台州の主簿であったとすると日本の府県知事くらいの官吏である。そうしてみると、唐書の列伝に出ているはずだというのである。しかし閭が・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・殊に屋賃をはじめ、将校の階級によって価が違うのは不都合である。休暇を貰っても、こんな土地では日の暮らしようがない。町中に見る物はない。温泉場に行くにしても、二日市のような近い処はつまらず、遠い処は不便で困る。先ずこんな事である。石田は只はあ・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・未来に希望をかける事が不都合なら未来に失望する事も同じように不都合です。しかし私たちはただ一つ、生が開展である事を知っています。私たちはただ未来を信じて、現在に努力すればいいのです。努力のための勇気と快活とを奮い起こせばいいのです。現在の小・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・と呼んでも、必ずしも不都合はないと思う。 そこでこの二つの態度の比較である。態度そのものの問題としては、どちらかが間違っているとは言い切れない。ミケランジェロは最後の審判において彼の幻想を描いた。平安朝の大和画家は当時の風俗の忠実な描写・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫