・・・その側に中隊長と中尉とが立っていた。顔が黒く日に焦げて皺がよっている百姓の嗄れた量のある声が何か答えているのがこっちまで聞えてきた。その声は、ほかの声を消してしまうように強く太くひびいた。 掠めたものを取りあっていた兵士達は、口を噤んで・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・栗本の中隊は、汽車に乗ってイイシの警戒に出かける命令を受けた。汽車には宵のうちから糧秣や弾薬や防寒具が積込まれた。夕闇が迫って来るのは早く、夜明けはおそかった。 栗本は、長い夜を町はずれの線路の傍で、幾回となく交代しつゝ列車の歩哨に立っ・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・ 六 三日目に、二個中隊の将卒総がゝりで、よう/\探し出された時、二人は生きていた時のまゝの体色で凍っていた。背に、小指のさき程の傷口があるだけであった。 顔は何かに呼びかけるような表情になって、眼を開けたまゝ・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・その時お目にかかって、弔みを云って下さったのが、先ず連隊長、大隊長、中隊長、小隊長と、こう皆さんが夫々叮嚀な御挨拶をなすって下さる。それで×××の△△連隊から河までが十八町、そこから河向一里のあいだのお見送りが、隊の規則になっておるんでござ・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・「中隊長殿! 誓って責務を遂行します。」 と、漢語調の軍隊言葉で、如何にも日本軍人らしく、彼は勇ましい返事をした。そして先頭に進んで行き、敵の守備兵が固めている、玄武門に近づいて行った。彼の受けた命令は、その玄武門に火薬を装置し、爆・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・一中隊はありますよ。義勇中隊です。」「やっぱりあんなでいいんですか。」「構いませんよ。それよりまああの梨の木どもをご覧なさい。枝が剪られたばかりなので身体が一向釣り合いません。まるで蛹の踊りです。」「蛹踊とはそいつはあんまり可哀・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
出典:青空文庫