・・・ この頃の交通機関の恐ろしい混雑は、乗り降りの秩序を市民に教えるより先に、腕力、脚力、なにおッの気合を助成した。大いに猛省がいる。女は、自分の息子や良人や兄弟たちに、一台のりおくれても、正しい列で秩序を保つようにすすめなければならない。・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・ 電車の乗り降り場にしては、重々しすぎて陰気な京成電車の、何年もしまったきりの入口を見て左へ折れ、音楽学校前への通りをすぎると、木の下に赤いポストが立っている。そこが上野の図書館入口の目じるしである。きょうは曝書でもやっていてお休みでは・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・人の乗り降りがあまりないので停車場などは止まったかと思うとすぐ出る。時計を出して見ると三分くらいで一丁場走っている。このぶんならたいてい大丈夫だと安心した気持ちになる。 しかし時間はいっぱいだった。市街電車へ乗り換える所へ来て、改札口で・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫