・・・そして、積極的に彼等がいかなる、境遇に置かれつゝあるかと認識することによって、その中の可能なるものより、速かに実現されんことを希うのである。 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ 人間として生れて来た以上は、肉体に於ても、又精神に於ても各々其の経験を出来得る限り多く営みたいという事は誰しも常に思い希うところであり、又此れが生活として意義ある事であろうと思う。併し其の本能の満足を遂げつゝある間に、人間は自己の滅亡・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・ こういう風に、自発的に、お母さんや、お姉さんの感動されたものを知りたいと希うでありましょう。これが、一般に、子供というものゝ心理であります。 これを要するに、大人が、功利的に、機械的に、強制的に、はじめから教育することを目的として・・・ 小川未明 「読んできかせる場合」
・・・何も廃刊させようと思って、あんな危い記事を書いたわけではないが、しかし、ひそかにお前の失脚を希う気持がなかったとは、言えなかったからだ。だから、廃刊になってみるとざまあ見ろと、おれは些か良い気持だったのだ。 何故、そんな気持を抱いたのか・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・忠義――忠義顔する者は夥しいが、進退伺を出して恐懼恐懼と米つきばったの真似をする者はあるが、御歌所に干渉して朝鮮人に愛想をふりまく悧口者はあるが、どこに陛下の人格を敬愛してますます徳に進ませ玉うように希う真の忠臣があるか。どこに不忠の嫌疑を・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・観察の公平無私ならんことを希うのあまり、強いて冷静の態度を把持することは、却て臆断の過に陥りやすい。僕等は宗教家でもなければ道徳家でもない。人物を看るに当って必しも善悪邪正の判決を求めるものではない。唯人物を能く看ることが出来れば、それでよ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ この権威を最後最上の権威であれかしと冀うのは、我々の欲望であって、一般に通ずる事実ではない。これを事実にしてくれるものは、相手と公平なる三者である。いやしくも二者の許諾を得ざるものは、どこまでも一家の批判に過ぎない。それが当然である。・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・で知られている瀧沢敬一が、世界平和のための積極的な発言者であるジョリオ・キューリー博士を政治的な嘲弄の言葉で通信にかいているのを見れば、平和を希う世界の良心に加えられた侮蔑と感じずにいられないのである。現代は、わたしたちが思っているよりも更・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 出来るだけ早くこの辛い世間から抜し(たいと希う心、早く、無我の世界に入りたいと望む心が日一日と深くなって行った。 めっきり気やかましくなった栄蔵に対してお節は実に忠実に親切にした。 こう云うのも病気のため、ああ怒るのも痛みのた・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 此の世に生れ出た以上は、自己を明らかにし、自己を確実に保つ事の目覚しさを希うて居る。 何事に於ても、「我」が基になるほど確な事はない。 神よりも自己を頼み、又とない避難所とし祈りの場所とする事は、願うべき事である。 そう云・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
出典:青空文庫