・・・四元の世界を眺めている彼には二元の芸術はあるいはあまりに児戯に近いかもしれない。万象を時と空間の要素に切りつめた彼には色彩の美しさなどはあまりに空虚な幻に過ぎないかもしれない。 三元的な彫刻には多少の同情がある。特に建築の美には歎美を惜・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・即ち昔は一元的、今は二元的である、すべて孝で貫き忠で貫く事はできぬ。これは想像の結果である。昔の感激主義に対して今の教育はそれを失わする教育である、西洋では迷より覚めるという、日本では意味が違うが、まあディスイリュージョン、さめる、というの・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・個人生活と階級人としての連帯的活動とが二元的な互に遊離したものとして承認され、階級的な活動の邪魔にさえならなければ、個人的な生活の面では何をしようとそれはその人の勝手であるという考えかたがあったらしい。このことを、当時性関係の面で論議をかも・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 物質の世界と心の世界とは、人間の文明の進むにつれて、だんだん野蛮な二元的解決から解放され、そのものの現実的でまた自然な動的な相互関係の統一のうえに理解されて来ている。 幸福というような、人間の社会生活の環境から生まれた一つの観念は・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ヨーロッパの過去の文学では自然が観念的な宗教や哲学的見解を語るための仲介物としてつかわれ、自然と人間とが二元的に相対している。 ルソウは、その文筆的労作の中で、人間を自然の一部としてみ、神話を自然からぬぎすてさせた先達の一人であったが、・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ バルザックは、ユーゴオのようにギリシャ悲劇の教養を土台にして、その作品に美と獣性、淫蕩と清純な愛、我慾と献身という風な二元的な対位法を使い、ロマンティックな荘重さ、熱烈さ、高揚で、文体を整えることも出来なかった。バルザックはこれらの輝・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・かつてした人間、今日は情勢に押されてその活動の自由を失っている人間の人間性というものを切り離して、運動の性質、その場面でのぞましいものと考えられている人間の統一体とは寧ろ対立的な関係にあるものとして、二元的に眺め、最後の軍配を弱く悲しく矛盾・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・と亀井は書いているが、労働者農民の権力樹立への闘争と民主主義獲得のための闘争とは二元的に並列するものでは絶対にない。日本におけるプロレタリア革命への現実的条件として民主主義革命はプロレタリア革命の有機的前駆をなすものであり、花とその苞の如き・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ この点について、私は特に興味ふかく思うのであるが、ひところ或る種のプロレタリア文学運動の活動家が人間性というものの理解について陥り勝ちであった二元的見解をひっくりかえしたようなものが、今日まで極めて文壇的な雰囲気、折衝、感情錯綜の中に・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・観的にシチュエーションをきめて物語を展開させられる探偵小説へ表現をもとめてゆく第一の理由は、今日の文化感覚のなかでまだ科学と文学とが、一方は非人間的な、純客観的なもの、一方は人間的な主観的なものという二元的観念の支配がつよく存在しているため・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
出典:青空文庫