・・・男もので手さえ通せばそこから着て行かれるまでにして、正札が品により、二分から三両内外まで、膝の周囲にばらりと捌いて、主人はと見れば、上下縞に折目あり。独鈷入の博多の帯に銀鎖を捲いて、きちんと構えた前垂掛。膝で豆算盤五寸ぐらいなのを、ぱちぱち・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・並の席より尺余床を高くして置いた一室と離屋の茶室の一間とに、家族十人の者は二分して寝に就く事になった。幼ないもの共は茶室へ寝るのを非常に悦んだ。そうして間もなく無心に眠ってしまった。二人の姉共と彼らの母とは、この気味の悪い雨の夜に別れ別れに・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・元治年中、水戸の天狗党がいよいよ旗上げしようとした時、八兵衛を後楽園に呼んで小判五万両の賦金を命ずると、小判五万両の才覚は難かしいが二分金なら三万両を御用立て申しましょうと答えて、即座に二分金の耳を揃えて三万両を出したそうだ。御一新の御東幸・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・九輯となると上中下の三帙を予定し、上帙六冊、中帙七冊、下帙は更に二分して上下両帙の十冊とした。それでもマダ完結とならないので以下は順次に巻数を追うことにした。もし初めからアレだけ巻数を重ねる予定があったなら、一輯五冊と正確に定めて十輯十一輯・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ 聖書一巻によりて、日本の文学史は、かつてなき程の鮮明さをもて、はっきりと二分されている。マタイ伝二十八章、読み終えるのに、三年かかった。マルコ、ルカ、ヨハネ、ああ、ヨハネ伝の翼を得るは、いつの日か。「苦しくとも、少し我慢な・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・しかしこういう場合にはほとんどきまったように、第二第三の電車が、時間にしてわずかに数十秒長くて二分以内の間隔をおいて、すぐあとから続いて来る。第一のでは、入り口の踏み台までも人がぶら下がっているのに、それがまだ発車するかしないくらいの時同じ・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・四木橋からその下流にかけられた小松川橋に至る間に、中川の旧流が二分せられ、その一は放水路に入り、更に西岸の堤防から外に出ているが、その一は堤を異にして放水路と並行して南下しているのに出逢う。 市川の町へ行く汽車の鉄橋を越すと、小松川の橋・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・「オイ、若えの、お前は若え者がするだけの楽しみを、二分で買う気はねえかい」 蛞蝓は一足下りながら、そう云った。「一体何だってんだ、お前たちは。第一何が何だかさっぱり話が分らねえじゃねえか、人に話をもちかける時にゃ、相手が返事の出・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ロンドンの東と西にある階級のちがい、生活のちがいが、同じイギリス人とよばれる人々の人生をはっきり二分していて、まったく別のものにしている現実をまざまざと目撃して、わたしは深いショックをうけた。ジャック・ロンドンが「奈落の人々」というルポルタ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・ ヴィクトリア公園を二分する道路のあちら側に鉄門があって、そっちに草原がひろがっていた。おふくろのを仕立直したスカートをつけたお下髪の女の子そのほかが草原で遊んでいる。草原は禿げちょろけだ。短い草が生え、ところどころ地面が出ている。賃貸・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫