・・・ 危険思想 危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である。 悪 芸術的気質を持った青年の「人間の悪」を発見するのは誰よりも遅いのを常としている。 二宮尊徳 わたしは小学校の読本の・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・この世界の英傑のなかに、ちょうどわれわれの留まっているこの箱根山の近所に生まれた人で二宮金次郎という人がありました。この人の伝を読みましたときに私は非常な感覚をもらった。それでドウも二宮金次郎先生には私は現に負うところが実に多い。二宮金次郎・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・しかしそれはまずそれとして何もそんなに心配せずとも或種類の芸術に至っては決して二宮尊徳の教と牴触しないで済むものが許多もある。日本の御老人連は英吉利の事とさえいえば何でもすぐに安心して喜ぶから丁度よい。健全なるジョン・ラスキンが理想の流れを・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ この間帝国座の二宮君が来て、あなたの明治座の所感と云うものを読んだが、我々の神経は痲痺しているせいだか何だかあなたの口にするような非難はとうてい持ち出す余地がない、芝居になれたものの眼から見ると、筋なぞはどんなに無理だって、妙だって、・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・として、先輩教員らのへつらい屈伏を目撃し二宮金次郎の話をして児童から「私は金次郎は感心ですけれど万兵衛はわるいと思います」といわれたことを契機に、猛然と自分のかけられてきた師範学校的世界観の魔睡を批判しはじめる。佐田の煩悶がかくして始る。佐・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ この二三ヵ月は月評につれて小林・室生両氏をはじめ、二宮尊徳について書く武者小路氏まで、この問題にふれている。『新潮』の杉山平助氏の論文、『文芸』の大宅氏の論文を熱心に読んだのは、恐らく私ひとりではなかったであろうと思われる。二人の筆者・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・これは直接恋愛についてではないが、たとえば武者小路実篤氏が今日の時代の農村の実状からとびはなれて、二宮尊徳をその誠意や精励、慧智の故にだけ、その美徳を抽象して賛歎しているような悲しき滑稽が出現するのである。 欧州の大戦と婦人の職業戦線の・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫