・・・ 問 君の交友の多少は如何? 答 予の交友は古今東西にわたり、三百人を下らざるべし。その著名なるものをあぐれば、クライスト、マインレンデル、ワイニンゲル…… 問 君の交友は自殺者のみなりや? 答 必ずしもしかりとせず。自殺を・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・そのいろんな人々が、また、その言うところ、論ずるところの類似点を求めて、僕の交友間のあの人、この人になって行く。僕は久しぶりで広い世間に出たかと思うと、実際は暗闇の褥中にさめているのであった。持ち帰った包みの中からは、厳粛な顔つきでレオナド・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・二葉亭は多情多恨で交友間に聞え、かなり艶聞にも富んでいたらしいが、私は二葉亭に限らず誰とでも酒と女の話には余り立入らんから、この方面における二葉亭の消息については余り多く知らない。ただこの一夜を語り徹かした時の二葉亭の緊張した相貌や言語だけ・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・二、僕と君との交友が、とかく、色眼鏡でみられるのは仕方がないのではないかな。中畑というのにも僕は一度あってるきりだし、世間さまに云わせたら、僕が君をなんとかしてケチをつけたい破目に居そうにみえるのではないかしら。僕だけの耳へでも、僕が君をい・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ それを語るためには、ちょっと、私と丸山定夫君との交友に就いて説明して置く必要がある。 太平洋戦争のかなりすすんだ、あれは初秋の頃であったか、丸山定夫君から、次のような意味のおたよりをいただいた。 ぜひいちど訪問したいが、よろし・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・そのような交友関係は人生にままある。けれども杉浦と勝治の交友ほど滑稽で、無意味なものも珍しいのである。杉浦透馬は、苦学生である。T大学の夜間部にかよっていた。マルキシストである。実際かどうか、それは、わからぬが、とにかく、当人は、だいぶ凄い・・・ 太宰治 「花火」
・・・もっと年とった方の先輩では、これは交友というのは失礼かもしれないけれど、お宅に上らせて頂いた方は佐藤先生と豊島与志雄先生です。そうして井伏さんにはとうとう現在の家内を媒酌して頂いた程、親しく願っております。 井伏さんといえば、初期の「夜・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
・・・実際子規と先生とは互いに畏敬し合った最も親しい交友であったと思われる。しかし、先生に聞くと、時には「いったい、子規という男はなんでも自分のほうがえらいと思っている、生意気なやつだよ」などと言って笑われることもあった。そう言いながら、互いに許・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・その貧しさ乏しさは、若い世代の男の子女の子のつき合いについての判断についても良識を欠くことになってたとえば相当な年になった息子たちや娘たちは自分たちの交友を家の外でするという結果をも導き出していると思う。 どんな若いひとたちにしろ、ただ・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ペルリが浦賀へ来た時代に大儒息軒先生として知られ、雲井龍雄、藤田東湖などと交友のあった大痘痕に片眼、小男であった安井仲平のところへ、十六歳の時、姉にかわって進んで嫁し、質素ながら耀きのある生涯を終った佐代子という美貌の夫人の記録である。「と・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
出典:青空文庫