・・・ かつまた当時は塞外の馬の必死に交尾を求めながら、縦横に駈けまわる時期である。して見れば彼の馬の脚がじっとしているのに忍びなかったのも同情に価すると言わなければならぬ。…… この解釈の是非はともかく、半三郎は当日会社にいた時も、舞踏か何・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ 彼らは日光のなかでは交尾することを忘れない。おそらく枯死からはそう遠くない彼らが! 日光浴をするとき私の傍らに彼らを見るのは私の日課のようになってしまっていた。私は微かな好奇心と一種馴染の気持から彼らを殺したりはしなかった。また夏の頃・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・荷車で餌を買いに行ったり、小屋の掃除をしたり、交尾期が来ると、掛け合わして仔豚を作ることを考えたり、毎日、そんなことで日を暮した。おかげで彼の身体にまで豚の臭いがしみこんだ。風呂でいくら洗っても、その変な臭気は皮膚から抜けきらなかった。・・・ 黒島伝治 「豚群」
出典:青空文庫