・・・二日の午後三時に政府は臨時震災救護事務局というものを組織し、さしあたり九百五十万円の救護資金を支出して、り災者へ食糧、飲料水をくばり、傷病者の手あて以下、交通、通信、衛生、防備、警備の手くばりをつけました。同日午後五時に、山本伯の内閣が出来・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・振りかの大雪で、往来の電線に手がとどきそうになるほど雪が積り、庭木はへし折られ、塀は押し倒され、またぺしゃんこに潰された家などもあり、ほとんど大洪水みたいな被害で、連日の猛吹雪のため、このあたり一帯の交通が二十日も全くと絶えてしまいました。・・・ 太宰治 「嘘」
・・・書いて置いたけれども、北さんは東京の洋服屋さん、中畑さんは故郷の呉服屋さん、共に古くから私の生家と親密にして来ている人たちであって、私が五度も六度も、いや、本当に、数え切れぬほど悪い事をして、生家との交通を断たれてしまってからでも、このお二・・・ 太宰治 「故郷」
・・・トの上にごろ寝をしていた夜には、青森市に対して焼夷弾攻撃が行われたようで、汽車が北方に進行するにつれて、そこもやられた、ここもやられたという噂が耳にはいり、殊に青森地方は、ひどい被害のようで、青森県の交通全部がとまっているなどという誇大なこ・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・これで交通の障碍がやっと除かれたのである。おれはこの出来事のために余程興奮して来たので、議会に行くことはよしにした。ぶらぶら散歩して、三十分もたってから、ちょうど歩いていたスプレエ川の岸から、例の包を川へ投げた。あたりを見廻しても人っ子一人・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・歩かなくても電車や汽車やバスでどこまででも行けるではないかと云われるが、しかしそういう好季節の好天気の休日の交通機関に乗ってゆっくり腰をかけられるチャンスは少ないし、腰かけられたとしても、車内の混雑に起因する肉体的ならびに精神的の苦痛は、目・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ ヘレン・ケラーは生後十八ヶ月目に重い病のために彼女の魂と外界との交通に最も大切な二つの窓を釘付けされてしまったにかかわらず、自由に自国語を話し、その上独、仏、羅、希にも通ずるようになった。指先を軽く相手の唇と鼻翼に触れていれば人の談話・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・現在の東京の子供なら静岡か浜松か軽井沢へでも行っていたのと相当する訳である。交通速度の標準が変ると距離の尺度と時間の尺度とがまるきり喰いちがってしまうのである。 その頃にもよく浜で溺死者があった。当時の政客で○○○議長もしたことのあるK・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・ それから遊び場所の選択や、交通の便なぞについて話しているうちに時が移っていった。山嵐のような風がにわかに出てきて、離れの二階の簾を時々捲きあげていたが、それもひとしきりであった。お絹たちは京阪地方へも、たいてい遊びに行っていて、名所や・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・しかし今は寺院の堂宇も皆新しくなったのと、交通のあまりに繁激となったため、このあたりの町には、さして政策の興をひくべきものもなく、また人をして追憶に耽らせる余裕をも与えない。かつて明治座の役者たちと共に、電車通の心行寺に鶴屋南北の墓を掃った・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
出典:青空文庫