・・・同僚も今後の交際は御免を蒙るのにきまっている。常子も――おお、「弱きものよ汝の名は女なり」! 常子も恐らくはこの例に洩れず、馬の脚などになった男を御亭主に持ってはいないであろう。――半三郎はこう考えるたびに、どうしても彼の脚だけは隠さなけれ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・永年の交際において、私は氏がその任務をはずかしめるような人ではないと信じますから一言します。 けれどもこれら巨細にわたった施設に関しては、札幌農科大学経済部に依頼し、具体案を作製してもらうことになっていますから、それができ上がった時、諸・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・盆くれのつかいもの、お交際の義理ごとに、友禅も白地も、羽二重、縮緬、反ものは残らず払われます。実家へは黙っておりますけれど、箪笥も大抵空なんです。――…………………それで主人は、詩をつくり、歌を読み、脚本などを書いて投書をするのが仕事です。・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・こんな調子で土地の者とも交際して居るのかしらなど考える。百里遠来同好の友を訪ねて、早く退屈を感じたる予は、余りの手持無沙汰に、袂を探って好きもせぬ巻煙草に火をつけた。菓子か何か持って出てきた岡村は、「近頃君も煙草をやるのか、君は煙草をや・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・丁度兄の伊藤八兵衛が本所の油堀に油会所を建て、水藩の名義で金穀その他の運上を扱い、業務上水府の家職を初め諸藩のお留守居、勘定役等と交渉する必要があったので、伊藤は専ら椿岳の米三郎を交際方面に当らしめた。 伊藤は牙籌一方の人物で、眼に一丁・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・この先生もどちらかといえば、あまり人と交際をしない変人でありましたが、こんなことから、隣の男と話をするようになりました。 ある朝、あほう鳥が鳴きました。男は、なにかあるな? と胸に思いました。 はたして、隣の先生がやってきました。そ・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・たまに活動写真ぐらいは交際さしたりイなと、突っ放すような返事だった。取りつく島もない気持――が一層瞳へひきつけられる結果になり、ひいては印刷機械を売り飛ばした。あちこちでの不義理もだんだんに多く、赤玉での勘定に足を出すことも、たび重なった。・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・その事件はまだそのままになっていたが、そのため両家の交際は断えていたのだ。「何という無法者だろう。恩も義理も知らぬ仕打ではないか!」 老父は耕吉の弁解に耳を仮そうとはしなかった。そして老父はその翌朝早く帰って行った。耕吉もこれに励ま・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・お前も少しは我を折って交際って見るがいい。となだむる善平に反りを返して、綱雄はあくまできっとしていたりしが、いや私はあんな男と交わろうとは決して思いません。見るから浮薄らしい風の、軽躁な、徹頭徹尾虫の好かぬ男だ。私は顔を見るのもいやです。せ・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・と別に交際もしないくせに「ひげ」は豊吉の上にあんな予言をした。 そしてそれが二十年ぶりにあたった。あたったといえばそれだけであるが、それに三つの意味が含まれている。『豊吉が何をしでかすものぞ、』これがその一、『五年十年のうちには・・・ 国木田独歩 「河霧」
出典:青空文庫