・・・ ひるすぎみんなは楽屋に円くならんで今度の町の音楽会へ出す第六交響曲の練習をしていました。 トランペットは一生けん命歌っています。 ヴァイオリンも二いろ風のように鳴っています。 クラリネットもボーボーとそれに手伝っています。・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ロシアの作曲家チャイコフスキーを題材とした「悲愴交響曲」という作品がある。二男は歴史家であるゴロ・マン。次女モニカはハンガリーの美術史家の妻。三男ミハエルはヴァイオリニスト。末娘のエリザベート・マンがピアニストで、イタリーの反ファシスト評論・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・切角イサベルが興奮し、熱烈になっても、何処にも其に交響する温い心の連絡が感じられない。従って、彼女の興奮は不自然に孤独で、何処となく無理、「芝居」の淋しさが、見る者の眼に湧上って来るのである。 若し実際の生活の中にある場合なら、到底イサ・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ たとえば新交響楽団の演奏会のおりおり、ハープの弾奏者として舞台に現れる加藤泰通子夫人があります。日本に演奏者の少いハープがこの夫人の趣味にかなったことから稽古をはじめられたでしょう。はじめは全く生活に余裕ある夫人のよい一つの仕事であっ・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・新交響楽団のベートウベンをずっときいているのですが、今度はパスをくれそうです。そうしたらうれしい。うちにピアノがほしいけれどもピアノがあったらよしあしだろうからそれよりレコードをきけるようにしたいと思っています。国府津へ国男が父親になった記・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・パセティークな、優しい、歴史性を確固としたがえた交響楽です。私は、本当に自分が芸術家として又一つ力強く人生に向いて背中を押し出されたような、新しい現実の面を我ものとしつつあることを感じて居るのです。このように私の経験。悲劇の発生を不可能なら・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・太平洋戦争がはじまる前まで、新交響楽団の定期演奏会は前売切符を会員に送った。その時分にひろ子もよくききにゆき、山沼というその青年も、大抵ききに来ていた。音楽をきいた帰りに、お茶をのみに歩いたりしても、山沼は、或る種の若い人のするような話しぶ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・その間にはなお斗拱や勾欄の細やかな力の錯綜と調和とが、交響の大きい波のうねりの間の濃淡の多いささやかなメロディーのように、人の心のすみずみまでも響きわたるのである。さらにまた真理の宝蔵のように大地を圧する殿堂がある。それは人の心を甚深なる実・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・その体験は今我々の現在の人格の内に渦巻きあるいは交響している。我々の眼や我々の意欲は、このオーケストラを伴奏としてさらに燃え、さらに躍動しようとする。そうしてこの心は自らを表現しないではやまない。たとえ我々の生命の沸騰が力弱く憐れなものであ・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫