・・・ところがその晩の十二時に、例のごとくあの婆が竪川の水に浸った後で、いよいよ婆娑羅の神を祈り下し始めると、全く人間業では仕方のない障害のあるのを知ったのです。が、その仔細を申し上げるのには、今の世にあろうとも思われない、あの婆の不思議な修法の・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・合点か。人間業では及ばぬ事じゃでな」 笠井はそういってしたり顔をした。仁右衛門の妻は泣きながら手を合せた。 赤坊は続けさまに血を下した。そして小屋の中が真暗になった日のくれぐれに、何物にか助けを求める成人のような表情を眼に現わして、・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ すると、おおぜいの中の、あるものは、「今度のことは、この国があってから、はじめてのことだ。人間業では、どうすることもできないことだ。」といったものがあります。 なるほど、そのものがいうとおりだと思ったのでしょう。みんなは、黙っ・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・ここに人間業と思われないような辛苦があるわけです。 生めよ、ふやせよと叫ばれた婦人が、きょうは、産児制限をすすめられていることについても、婦人はいいしれない屈辱を感じます。売笑婦、浮浪児が増大するばかりで、六・三制の予算は削られ、校舎が・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
出典:青空文庫