・・・あの物盗りが仕返ししにでも来たものか、さもなければ、検非違使の追手がかかりでもしたものか、――そう思うともう、おちおち、粥を啜っても居られませぬ。」「成程。」「そこで、戸の隙間から、そっと外を覗いて見ると、見物の男女の中を、放免が五・・・ 芥川竜之介 「運」
・・・「そでないでっしゅ。仕返しでっしゅ、喧嘩の仕返しがしたいのでっしゅ。」「喧嘩をしたかの。喧嘩とや。」「この左の手を折られたでしゅ。」 とわなわなと身震いする。濡れた肩を絞って、雫の垂るのが、蓴菜に似た血のかたまりの、いまも流・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・憎いやつなら何もおれが仕返しをする価値はないのよ。だからな、食うことも衣ることも、なんでもおまえの好きなとおり、おりゃ衣ないでもおまえには衣せる。わがままいっぱいさしてやるが、ただあればかりはどんなにしても許さんのだからそう思え。おれももう・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ 先廻りして食って掛ると、男は釣糸を見つめながら、「おれは十六から吸っている」 豹吉はやられたと思った。「朝っぱらから釣に来て、昼のお菜の工面いうわけか」 仕返しの積りで言うと、「落ちぶれても、おりゃ魚は食わんよ。生・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・ と、小川君に言ってやって、私の感覚のあなどるべからざる所以を示し、以て先刻の乞食の仕返しをしてやろうかとも考えたが、さすがに遠慮せられた。別に確証があっての事ではない。ただふっとそんな気がしただけの事で、もし間違ったら、彼におわびの仕様も・・・ 太宰治 「母」
・・・やがて祖父さんは、こういう揚足とりに対しては何かできっとこっぴどくゴーリキイに仕返しをするのであったが、暫くでも祖父さんをまごつかせたことで、ゴーリキイは「凱歌をあげた。」 これにくらべて祖母さんアクリーナの神は、何と親密で、人間のよう・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫