・・・自力によって既成の中に自己を主張せんとしたのが、他力によって既成のほかに同じことをなさんとしたまでである。そうしてこの第二の経験もみごとに失敗した。我々は彼の純粋にてかつ美しき感情をもって語られた梁川の異常なる宗教的実験の報告を読んで、その・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・すると人はきっと何かしら神秘的な因果応報の作用を想像して祈祷や厄払いの他力にすがろうとする。国土に災禍の続起する場合にも同様である。しかし統計に関する数理から考えてみると、一家なり一国なりにある年は災禍が重畳しまた他の年には全く無事な回り合・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・上人の愚禿はかくの如き意味の愚禿ではなかろうか。他力といわず、自力といわず、一切の宗教はこの愚禿の二字を味うに外ならぬのである。 しかし右のようにいえば、愚禿の二字は独り真宗に限った訳でもないようであるが、真宗は特にこの方面に着目した宗・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・そうすると坊さんが言うには「今のお話しのうちの意志の自由を打消すという事は吾々の宗旨で平生いう所の他力信心に似て居る」というた。〔『ホトトギス』第五巻第七号 明治35・4・20 一〕○おとどしの春黙語氏の世話で或人の庭に捨ててあ・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・を提唱したのであったが、氏によって云われた主観性というものも、低俗な他力主義に対する主観の能動性の強調の範囲にとどまり、主観の内容は十分諒解させ得なかった。「理論への情熱」も同様であった。かかる観念の上に道を求めたヒューマニズムが、日常不本・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫