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・・・ と真四角に猪口をおくと、二つ提げの煙草入れから、吸いかけた煙管を、金の火鉢だ、遠慮なくコッツンと敲いて、「……(伊那や高遠……と言うでございます、米、この女中の名でございます、お米。」「あら、何だよ、伊作さん。」 と女中が・・・
泉鏡花
「眉かくしの霊」
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・・・これは伊那盆地から松本平へ吹き抜ける風の流線がこの谷に集約され、従って異常な高速度を生じたためと思われた。こんな谷の斜面の突端にでも建てたのでは規準様式の建築でも全く無難であるかどうか疑わしいと思われた。 地震による山崩れは勿論、颱風の・・・
寺田寅彦
「颱風雑俎」