・・・戦地へ出かける途中、上野駅に下車して、そこで多少の休憩の時間があるからそれを利用し、僕と一ぱい飲もうという算段にちがいないと僕は賢察していたのである。もうその頃、日本では、酒がそろそろ無くなりかけていて、酒場の前に行列を作って午後五時の開店・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・つづいて座談会の筈でありましたが、委員は、お疲れのようですから、少し休憩なさい、と私にすすめてくれましたが、私は、「いいえ、私のほうは大丈夫です。あなた達のほうがお疲れだったでしょう。」と言いましたら、場内に笑声が湧きました。くたくたに・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・たとえば兵営の浴室と隣の休憩室との間におけるカメラの往復によって映出される三人の士官の罪のない仲のいいいさかいなどでも、話の筋にはたいした直接の関係がないようであるが、これがあるので、後にこの三人が敵の牢屋に入れられてからのクライマックスが・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・われるであろうが、事実は全くその反対で、一、二巻のフィルムを見ているうちに、今まで頭の中に固定観念のようにへばりついていた不思議なかたまりがいつのまにか朝日の前の霜柱のようにとけて流れて消えてしまう。休憩時間に廊下へ出て腰かけて煙草でも吹か・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・ クラブの建物はいつか覗いてみた朝霞村のなどに比べるとかなり謙遜な木造平家で、どこかの田舎の学校の運動場にでもありそうなインテリ気分のものである。休憩室の土間の壁面にメンバーの名札がずらりと並んでいる。ハンディキャップの数で等級別に並べ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ 管絃のプログラムが終ると、しばらくの休憩の後に舞楽が始まった。 一番目は「賀殿」というのであった。同じ衣装をつけた舞人が四人出て、同じような舞をまうのであるが、これもちょうど管弦楽と全く同じようにやはり一種の雰囲気を醸出する「運動・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・二階の休憩室には色々な飾り物が所狭く陳列してあって、それに「花○喜○丈」と一々札がつけてある。一座の立役者Hの子供の初舞台の披露があるためらしい。ある一つの大きな台に積上げた品物を何かとよく見るとそれがことごとく石鹸の箱入りであった。 ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・これも祝いのあるうちは泊まっているので、池の向こうの中二階はこの芸者の化粧部屋にも休憩所にもまた寝室にもなっていた。 夕方近くから夜中過ぎるまで、家じゅうただ目のまわるほど忙しく騒がしい。台所では皿鉢のふれ合う音、庖丁の音、料理人や下女・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
・・・して下宿の婆さんに降を乞うや否や、婆さんは二十貫目の体躯を三階の天辺まで運び上げにかかる、運び上げるというべきを上げにかかると申すは手間のかかるを形容せんためなり、階段を上ること無慮四十二級、途中にて休憩する事前後二回、時を費す事三分五セコ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ 夜、工場クラブで集会が終ったところだ。休憩室へみんながぞろぞろとあふれ出し、或る者は隅のテーブルで茶を飲みはじめる。それに混って、ボルティーコフも出て来た。彼はコレクティーブの秘書ソモフの踵へくっついて歩きながら頻りにぐずぐず云ってい・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
出典:青空文庫