・・・が、それは追々話が進むに従って、自然と御会得が参るでしょう。「何しろ三浦は何によらず、こう云う態度で押し通していましたから、結婚問題に関しても、『僕は愛のない結婚はしたくはない。』と云う調子で、どんな好い縁談が湧いて来ても、惜しげもなく・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・ 会得が行くとさも無い事だけ、おかしくなったものらしい。「大福を……ほほほ、」と笑う。 とその隣が古本屋で、行火の上へ、髯の伸びた痩せた頤を乗せて、平たく蹲った病人らしい陰気な男が、釣込まれたやら、「ふふふ、」 と寂しく・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・の話を聞いてくれる人があってこそ、そのお婆さんも何の気兼もなしに近所仲間の仲間入りができるので、それが飾りもなにもないこうした町の生活の真実なんだということはいろいろなことを知ってみてはじめて吉田にも会得のゆくことなのだった。 そんなふ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・郷里以外の地で見聞きし、接触した人と人との関係や性格よりも、郷里で見るそれの方が、私には、より深い、細かい陰影までが会得されるような気がする。 が、それと共に、自然の風物もいまでは、痛く私の心を引く。絶対安静の病床で一カ月も米杉の板を張・・・ 黒島伝治 「海賊と遍路」
・・・そんなコツをさえもよう会得しない。そのくせ、人の醜悪面を見ては不公平だの、キタないのと云ってこぼして居るのだ。こんな奴は田舎へ行って百姓でもして居る方が柄に合っているのだ。──百姓をすると又、地子が高いの、取った米の値が安すぎるのとブツ/\・・・ 黒島伝治 「自画像」
・・・趣味の前には百万両だって煙草の煙よりも果敢いものにしか思えぬことを会得しないからだ。 骨董はどう考えてもいろいろの意味で悪いものではない。特に年寄になったり金持になったりしたものには、骨董でも捻くってもらっているのが何より好い。不老若返・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・どうもマセマチカルの考えの薄い人は中々奥妙の理を急に会得する事が難いよ。ダカラ希臘の哲学者はまず哲学を学ぶ前に数学をやれと弟子達に教たのだよ。この頃世間に哲学臭い事をいう奴が多いが、叩いて見ると皆数学思想が薄弱だから困るよ。これは日本支那の・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ 頭も上げ得ず、声も出し得ず、石のようになっている意外さに、福々爺も遂に自分の会得のゆかぬものが有ることを感じ出した。其感じは次第次第に深くなった。そして是は自分の智慧の箭の的たるべき魔物が其中に在ることは在るに違無いが何処に在るか分ら・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・これと反対に、読んでおのずから胸の透くような箇所があれば、それはきっと著者のほんとうに骨髄に徹するように会得したことをなんの苦もなく書き流したところなのである。 この所説もはなはだ半面的な管見をやや誇張したようなきらいはあろうが、おのず・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・頭が良くなくても根気さえあれば人が一日に一時間ずつ費やして会得しまた仕遂げる事を、二時間三時間ずつかければ会得し遂行されよう。 科学教育の根本は知識を授けるよりもむしろそういう科学魂の鼓吹にあると思われる。しかしこれを鼓吹するには何より・・・ 寺田寅彦 「雑感」
出典:青空文庫