・・・すなわち、まず、言語、国語という一つの体系は若干の語根元素から組成されていると仮定する。次には、この元素が化合して種々の言語や文章が組成されているが、これらの間にはその化合分解の平衡に関するきわめて複雑な方則のようなものがあると想像する。な・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ 物理学というものはやはり一つの学問の体系であって、それが黎明時代から今日まで発達するにはやはりそれだけの歴史があったので、その歴史は絶対単義的な唯一の道をたどって来たと考えるよりは、むしろ多くの可能な道のうちの一つを通って来たものと考・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・自分は現在の物理学の概念をことごとく改造して従来よりもいっそう思考の経済上有利な体系ができうるかどうか到底想像する事はできないが、しかし少なくも物理学の従来の歴史から見て、斯学の発展と共に種々の概念が改造されあるいは新たに構成されまた改造さ・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・日常的題目を日常的に論じた彼の『エッセー』の中には、時に大げさな体系的哲学以上の真理を含んでいる。歴史的実在の世界は日常的世界である。彼の描いた自己は日常的世界において生きぬいた自己である。しかしそこからはすぐパスカルの『パンセー』の世界に・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・彼がこの文章の形式を選んだのは、一つには彼の肉体が病弱で、体系を有する大論文を書くに適しなかつた為もあらうが、実にはこの形式の表現が、彼のユニイクな直覚的の詩想や哲学と適応して居り、それが唯一最善の方法であつたからである。アフォリズムとは、・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・そう主張するこれらの提唱をやや体系だてたものとして、谷川徹三氏の文化平衡論が現れた。日本の文化の歴史は、その社会的な背景の影響によってインテリゲンツィア、特に作家の持つ精神内容の高さと、夥しい制約を負うている民衆の文化水準との間に、甚しい距・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・又私は、一つの名を持った特定の思想体系について云おうとしているのでもない。芸術作品について思想と云う時、それは一般的に作者が私たちの生活の中で何に注目し、それをどう理解しているかを指している。そう云っただけではまだ不充分だ。作品の与える感動・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・彼等の構成した国家の、地理的国境と、政治的体系と、彼等の始祖からの気質の傾向に種々の変遷を経つつ今日に至った一群の人間なのでございます。名は約束でございます。日本人と云う総称が、其の裡に無数の箇性的差異を包含して居る通り、人類と云う響は又其・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・の題材とちがって、国家の権力によって組織されていた一つの巨大な野蛮と殺りくの全体系の一部分を題材としたのであるから、作者が題材としてきりとって来てそこを描き出した一片の経験は、短期間の、比較的平穏なものであったにしても、人民の芸術として読み・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・ 不安の文学の提唱も大して体系的に深められぬまま、すでにこれらの人々は考えるに飽き、今は、行動へ、明るさ朗らかさへ、野生で溌溂たる生へ! と落付かぬ眼差しを動かしているのである。けれども、このはっきりした基準のない行動への衝動欲求は、非・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫