・・・午後の分は僅であったから一時間半ばかりでもぎ終えた。何やかやそれぞれまとめて番ニョに乗せ、二人で差しあいにかつぐ。民子を先に僕が後に、とぼとぼ畑を出掛けた時は、日は早く松の梢をかぎりかけた。 半分道も来たと思う頃は十三夜の月が、木の間か・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・仕入れや何やかやで大分金が足らなかったので、衣裳や頭のものを質に入れ、なおおきんの所へ金を借りに行った。おきんは一時間ばかり柳吉の悪口を言ったが、結局「蝶子はん、あんたが可哀想やさかい」と百円貸してくれた。 その足で上塩町の種吉の所へ行・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・毛布や何やかやあるから売れば金になるだろう」「そんなン……気の毒ですわ」「今から行って来るから、帰るまで待っていろ」 そう言って、小沢は出て行った。 その帰りを、雪子は待ち焦れているのだった。 勿論、著物を待っているのに・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・前の嚊にこそ血筋は引け、おらには縁の何も無いが、おらあ源三が可愛くって、家へ帰るとあいつめが叔父さん叔父さんと云いやがって、草鞋を解いてくれたり足の泥を洗ってくれたり何やかやと世話を焼いてくれるのが嬉しくてならない。子という者あ持ったことも・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・襖のあく音に、わたくしは筆を手にしたままその方を見ると、その頃家にいた八重という女が茶と菓子とを好みの器に入れて持ち運んで来たのである。何やかやとはなしをしている中に、鐘の音が聞える。遠い目白台の鐘である。わたくしはその辺にちらかした古本を・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ 毎日午後に、下谷御徒町にいた師匠むらくの家に行き、何やかやと、その家の用事を手つだい、おそくも四時過には寄席の楽屋に行っていなければならない。その刻限になると、前座の坊主が楽屋に来るが否や、どこどんどんと楽屋の太鼓を叩きはじめる。表口・・・ 永井荷風 「雪の日」
出典:青空文庫