・・・一片の形容詞が何時の間にか人生観と早変りをするのは、これ何とも以て不思議の至りさ。 いや、何時のまにか私も大気焔を吐いて了って。先ずここらで御免を蒙ろう。 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・櫛田さんが娘さんをそのような若妻としての位置において眺めて、衷心からともによろこび、安心することができたのは、母としての櫛田さんが何時の間にか広い社会的な活動の中に自分をおくようになっていたからではなかっただろうか。 父親に早く別れた男・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・結婚してから幾年か経ちでもすれば、良人の姓にも馴れ、記憶に刻まれるのだけれども、今迄、呼びなれていた友の名が、何時の間にかまるで違ったものになり、前に現れると、自分は、すっかりまごついてしまう。また、誰でも、一々友達じゅうに、自分の結婚を告・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・ 今日の少しものをかんがえる若い女性たちの心の中に、結婚と家庭というものが何時の間にか女性の生涯の解決ではなくて、それが彼女の夫になるべき青年たちの感覚の中にとらえられているとおり、彼女たちにとってもやっぱり女としての社会生活の一面であ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・自然は生育の過程の何時の間にか、堅い折れ易い骨の裡に、流動する液体を与えた。 誰が与えられた時を知り、その動揺を知覚し得よう。けれども在る事は事実である。無くては居られない。持たずには居られない。その、神秘的な液体と倶に、人を産んだ「祖・・・ 宮本百合子 「無題」
出典:青空文庫