・・・ 問 君はその詩を佳作なりとなすや? 答 予は必ずしも悪作なりとなさず。ただ「蛙」を「河童」とせんか、さらに光彩陸離たるべし。 問 しからばその理由は如何? 答 我ら河童はいかなる芸術にも河童を求むること痛切なればなり。・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・どうやら、佳作、という事に落ちついた様子であります。けれども芸術家は、その批評にも、まるで無関心のように、ぼんやりしていました。それから、驚くべきことには、実にくだらぬ通俗小説ばかりを書くようになりました。いちど、いやな恐るべき実体を見てし・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・つまらんものを書いて、佳作だの何だのと、軽薄におだてられたいばかりに、身内の者の寿命をちぢめるとは、憎みても余りある極悪人ではないか。死ね! 親が無くても子は育つ、という。私の場合、親が有るから子は育たぬのだ。親が、子供の貯金をさえ使い・・・ 太宰治 「父」
・・・ さらにまた、この作家に就いて悪口を言うけれども、このひとの最近の佳作だかなんだかと言われている文章の一行を読んで実に不可解であった。 すなわち、「東京駅の屋根のなくなった歩廊に立っていると、風はなかったが、冷え冷えとし、着て来た一・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・その画は小さいスケッチ版ではあったが、父の最近の佳作の一つであった。父の北海道旅行の収穫である。およそ二十枚くらい画いて来たのだが、仙之助氏には、その中でもこの小さい雪景色の画だけが、ちょっと気にいっていたので、他の二十枚程の画は、すぐに画・・・ 太宰治 「花火」
・・・その洒堂を誨えたるもこれらの佳作を斥けたるにはあらで、むしろその濫用を誡めたるにやあらん。許六が「発句は取合せものなり」というに対して芭蕉が「これほど仕よきことあるを人は知らずや」といえるを見ても、あながち取合せを排斥するにはあらざるべし。・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・というのは、これが翻訳小説であったならば随分佳作として称讚したのではないかと云うこと。おかしな云い方だが、日本の小説性格形成の過程と、西洋的のとは、根本的に相違があるのではないか。」 大体以上のように武田氏は云われている。 一つの小・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ 佳作三篇 木枯。 鷹美艶 これは小学校の女先生の報告です。特別鋭い観察や感情があるわけではないが、自分の仕事のなかでめぐり会った一情景と感情とを社会の姿として描き出しているところが、一番まとまっていました。書き方が小品と・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・この作品は報告文学であるが、気持のそういう方面も健康に全体の中にふくめて書かれているし、応募作品中の佳作である。〔一九三四年十一月〕 宮本百合子 「「第三新生丸」後日譚について」
・・・ 一ヵ月たった十ルーブリで田舎の小学教師をしていたこともあるニェヴェーロフが一九二〇年にはタシケントに行って、類の少い佳作「パンの町タシケント」を書いた。 一九一八年の党員で、フルンゼと一緒に赤色戦線で働き、クバン駐在赤軍政治部長を・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫