・・・然に美辞の法に称うと士班釵の翁はいいけり真なるかな此の言葉や此のごろ詼談師三遊亭の叟が口演せる牡丹灯籠となん呼做したる仮作譚を速記という法を用いてそのまゝに謄写しとりて草紙となしたるを見侍るに通篇俚言俗語の語のみを用いてさまで華あるものとも・・・ 著:坪内逍遥 校訂:鈴木行三 「怪談牡丹灯籠」
・・・は存外合理的でないものが多数にあって、問題の「速度のはやい」などもその一例である。この場合の「速度」は俗語の「はやさ」と同義であって術語のヴェロシティーと同じではないのである。例えばまた「のろい週期」などという言葉も平気で使うが「長い週期」・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・俗語 の最俗なるものを用い初めたるもまた蕪村なり。元禄時代に雅語、俗語相半ばせし俳句も、享保以後無学無識の徒に翫弄せらるるに至って雅語ようやく消滅し俗語ますます用いられ、意匠の野卑と相待って純然たる俗俳句となり了れり、されどその俗語も必・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
上 この武蔵野は時代物語ゆえ、まだ例はないが、その中の人物の言葉をば一種の体で書いた。この風の言葉は慶長ごろの俗語に足利ごろの俗語とを交ぜたものゆえ大概その時代には相応しているだろう。 ああ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫