・・・それに公開の裁判でもすることか、風紀を名として何もかも暗中にやってのけて――諸君、議会における花井弁護士の言を記臆せよ、大逆事件の審判中当路の大臣は一人もただの一度も傍聴に来なかったのである――死の判決で国民を嚇して、十二名の恩赦でちょっと・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ こう云うと、私は自分の存在を否定するのみならず、かねてあなた方の存在をも否定する訳になって、かように大勢傍聴しておられるにもかかわらず、有れども無きがごとくではなはだ御気の毒の至りであります。御腹も御立ちになるでしょうが、根本的の議論・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・出廷する暁子として、写真も大きく載せられ、裁判所は此一人の女優の生涯に起った悲しい出来事の公判のために、傍聴券を出しました。検事の論告は暁子が母性を失っている、母たる資格を持たぬ女であると云う事から二年を求刑し、母性の典型として山本有三氏の・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
三月十五日は三・一五の記念日だから共産党の公判を傍聴に行こうとお友達○○○さんに誘われました。わたしはこれまで新聞で公判のことをときどき読んでいましたが、どうもよく本当の様子が分りませんでした。正直に云うとこわいもの見たさ・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・は、婦人が政治に関する演説を傍聴することさえ感じた。女学校令というものが出来て、女子教育の普及を計ると云われたのは一八九九年のことであるが、その次の年政府は治安警察法第五条で女子の政治運動を禁止した。 日本の地平線をちらりと掠めた民主主・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・この公判には組合の人々も都合して一人でも多く傍聴する必要があります。検事が不当な取調べをしたと云う事は公判第一日から五回迄の陳述の中に、ハッキリ述べられています。林弁護人の陳述の中では検事団が三鷹事件の証人を検事側に有利に利用する為には偽証・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・ 明治十三年に神田の区会に婦人傍聴者が現れたということが神崎清氏の婦人年鑑にあって、それから明治二十三年集会結社法で婦人の政談傍聴禁止がしかれるまで、成田梅子、村上半子、景山英子らの活溌な動きがあったのだが、岸田俊子にしろ当時の自由党員・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ 私は、一人の妻として計らずもこの事件の公判の傍聴者であり目撃者であった。一九四〇年春ごろから非転向の人たちだけの統一公判がはじまった。事件のあった時から足かけ八年目である。 転向を表明した人々の公判が分離して行われ、大泉兼蔵の公判・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・閉廷したのであったが「法廷両側に貼られた『傍聴人心得』の必要をみとめないほど、この日の法廷は野次も旗も労働歌もない、ただ熱心にメモをとるばかりの傍聴席風景だった。」 被告たちが、いっせいに公訴の不当を訴えた根拠というのは、どういうものだ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・被告宮本ただ一人、傍聴者は弁護士と妻と看守ばかりという法廷であった。戦争に気を奪われ左翼の存在を忘れさせられた人々は殺人の公判には傍聴に入っても治安維持法の公判廷には姿を見せなくなった。治安維持法の意味を知り、公判に関心をもつ人々は危険をお・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫