・・・ 六十五人の同盟員と三百人近い傍聴者とは、ギッシリ観客席を埋め、手に手に二十八頁の議事録をひろげている。 徳永直が、例の二つの黒い鼻の穴で階級を嗅ぎ分けるというような恰好で、熱心に委員橋本英吉の報告をきいている。「肩を聳した」小林多・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
けさ、新聞をひろげたら、『衆院傍聴席にも首相の「若き顔」』として、米内首相の子息の学生服姿が出ている。本当にこの息子さんの面ざしはお父さんの俤を湛えているけれども、この若人も、きのうはやっぱり地下室に蜒々と連らなった人の列・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・というものが出来て、婦人が政治演説を傍聴することを禁じた。 ここで私共は、一つの驚きを以て顧みる。日本の憲法というものは、何と外国の憲法と性質の異ったものであるかということである。憲法というものは、何処の国でも、支配者の大権と共に人民の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・必ず、わきに立ち傍聴し、前かけをひねくって、時には涙をおとしている女中に同情した。十一二歳になった少女には、稚い正義感が芽生えてそういうとき段々女中の弁護者となって行った。子供は実証主義者だから、母が主人という立場から、かくかくにするべきも・・・ 宮本百合子 「私の青春時代」
・・・ ここまで傍聴していた奥さんが、待ち兼ねたように、いろいろな話をし掛けると、秀麿は優しく受答をしていた。この時奥さんは、どうも秀麿の話は気乗がしていない、附合に物を言っているようだと云う第一印象を受けたのであった。 それで秀麿が座を・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・そこにはある事件の傍聴のために多数の市民が集まっている。事件の判決が済むと、余興をでもやらせるような調子で彼が呼び出される。君は珍しい話を知っているそうだが、一つその新しい宗教というのを説明してもらいたい。 パウロは山頂の石壇に上り、ア・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫