・・・俳句に富士山を入れると俗な句になりやすい、俳句に松の句もあるけれど松の句には俗なのが多くて、かえって冬木立の句に雅なのが多い、達磨なんかは俳句に入れると非常に厭味が出来る、これ位の事は前から知って居たのであるけれどそれを画の上に推し及ぼす事・・・ 正岡子規 「画」
・・・「手に入れる工夫はないだろうか。」「ないわけでもないだろう。ただ僕たちのはヘロンのとは大きさも型も大分ちがうから拵え直さないと駄目だな。」「うん。それはそうさ。」 さて雲のみねは全くくずれ、あたりは藍色になりました。そこでベ・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・くしさにみせられて頬をうす赤くしながらそのムッチリした肩を見ながら、ペーン ほんとうにマア、お前は美くしい体と心をもって居る事、私に御前の手の先だけさわらして御呉れ、その象牙ぼりの様な手の中に入れる事を――精女 御さわりにならな・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・その外はどの山かの下へ入れる。電報は大抵赤札と同じようにするのである。 為事をしているうちに、急に暑くなったので、ふいと向うの窓を見ると、朝から灰色の空の見えていた処に、紫掛かった暗色の雲がまろがって居る。 同僚の顔を見れば、皆ひど・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・我らの祖先は当時なお、一つの偉大な宗教をただ宗教として、あるいは一つの偉大な思想をただ思想として、受け容れるほどには熟していなかった。仏教の背後にその芸術的要素やシナの文化やその他種々のものが活らいていたからこそ、我々の祖先はあのように大き・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫